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第107話
しばらくして、インターホンが鳴る。
「夏月!望月さんは?」
「透さん…」
透さんは俺の腕の中で眠る先輩を診察した。
一緒についてきたらしい圭さんも、部屋の外から心配そうに覗き込んでいた。
「望月さんの薬手帳とか、診察券とかないか?」
「探してみます。」
財布の中にはなくて、部屋を探したらハンガーにかかっていた上着のポケットに、診察券と薬が入っていた。
カバンの中にお薬手帳もあった。
透さんに渡すと、それをパラパラと捲る。
「薬の飲み過ぎだろうな。土曜に処方してもらった1日2錠の薬がかなり減ってる。それに追加で眠剤も飲んでる。下手すりゃ命に関わってたな。」
「そんな…!」
命?
先輩が死ぬかもしれないってこと?
透さんの腕を掴むと、透さんは大きくため息をついた。
「安心しろ。今は大丈夫だから。ただ、この薬はかなり依存性が高い。望月さん自身、医者からも言われてるはずだ。今後のフォローはかなり大切だと思った方がいい。」
「分かりました…。」
「話は帰ってから聞くから、とりあえずお前は仕事に行ってこい。望月さんは圭に付き添っててもらうから。何かあったら俺に連絡させる。」
「でもっ…」
こんな状態の先輩を置いて仕事に行くなんて無理だ。
先輩をぎゅっと抱きしめると、圭さんが近づいてきた。
「俺に任せて?もっちーさんのことはちゃんと見守ってるから!」
「圭さんのことが信用できないわけじゃなくて…、その……」
何て言葉にすればいいんだろう。
圭さんは信用してるけど、ただ俺が付き添っていたい。
言葉に詰まっていると、圭さんはニコッと笑う。
「わかってるよ!心配なんでしょー?でも夏月くんまで休んだら、もっちーさんも罪悪感が残っちゃうんじゃないかな?」
「………」
「夏月は仕事が終わったら、この心療内科に話を聞きに行くのと、次の受診日までに足りない分の薬をもらってきてくれ。俺からも連絡しておく。」
透さんから診察券を渡される。
心療内科わたせクリニック。
先輩は俺の知らないうちに心療内科に通院していたらしい。
土曜って…。
午前中、柳津さんと会ってたんじゃなくて、病院に行ってたんだ…。
どうしてって思うけど、きっと先輩のことだから、俺に心配かけないため、だよな……。
「先輩の目が覚めたら連絡してください…。」
「うん。わかった。」
「先輩のこと怒らないで…。俺がちゃんと注意するから…。」
「俺たちが怒らなくても、主治医からはたっぷりお叱り受けるだろうな。」
「はい…。」
仕事用の鞄を持って、会社に遅刻することと、先輩が体調不良で休むことを伝える。
「先輩、いってきます…。」
なかなか目覚めない先輩の唇にチュッとキスを落とし、俺は家を出た。
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