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第108話
仕事は一切手につかなかった。
何をしても失敗ばかりで、怒られても頭に入ってこなかった。
ただただ先輩のことが心配で。
圭さんに一時間ごとに連絡しては、まだ起きていないと返事を見て不安になった。
「おい、城崎。大丈夫か?」
「……柳津さん。」
さすがに失敗が目立ちすぎたのか、柳津さんがため息をついて俺の隣に座る。
朝、慌てて会社に連絡した時も、先輩の休みを俺が連絡して上司に不信に思われたのを、柳津さんが上手く言って助けてくれたらしい。
「柳津さんは知ってたんですか…?」
「ん?」
「先輩が…、病院に通ってたこと……。」
「あぁ、知ってるよ。どうして?」
やっぱり知ってたんだ…。
心配かけてもいいから、俺にも話してほしかった。
「朝、先輩が薬の飲み過ぎで倒れたんです…。」
「えっ?!綾人は??無事なのか?!」
柳津さんは驚いて立ち上がった。
そりゃ、柳津さんだって心配だよな…。
「命に別状はないって…。ただ、依存性のある薬だから、今後の管理が大切だって。」
「………そっか。」
柳津さんはほっと息を吐いて、席に座り直した。
二人の間に沈黙が流れる。
「俺、自分の命より先輩の方が大切なんです。」
「うん。見てたらわかるよ。」
「他に先輩が俺に隠してることってあるのかな…。」
「知らねぇよ。綾人が何をお前に話して、何を話してないかまでは把握してない。」
先輩の思考が読めればいいのに…。
今まで分からないことがあってもいいかもななんて思ったこともあったけど、こんなに不安になるくらいなら、全部知りたい。
嬉しいことも悲しいことも、全部知れたらいいのに…。
「柳津さん…」
「ん?」
「先輩、最近実家に帰ることが多いんです。何か聞いてますか…?」
「あぁ。親に説得に行ってるんだとよ。」
「説得…?」
「おまえとの関係、認めてもらえるように通ってるみたいだよ。綾人は綾人なりに、これからも城崎と一緒に居れるように頑張ってる。」
そうだったんだ…。
じゃあ、あの酔い潰れていた日は、もしかして親に反対されたのかな…。
だから、前も落ち込んでたら励ましてって、そう言ってたのかな…。
「泣くなよ。」
「泣いてません…。」
「ま、そういうことにしといてやるよ。」
先輩が俺との未来を考えてくれている。
それだけでどれだけ救われるか、どれほど嬉しいか。
溢れる涙がバレないように顔を隠したけど、柳津さんにはお見通しだったようだ。
「俺、絶対先輩のこと幸せにする…。」
「城崎ならできるよ。」
柳津さんに励まされ、午後なんとか仕事に取り掛かることができた。
仕事を終わらせ、定時ぴったりに職場を後にした。
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