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第109話

「ここが……」 心療内科わたせクリニック。 そこは閑静な住宅街にあった。 看板がなければ、ただの大きな一軒家に見える。 中に入ると、木目調に統一されていて、なんだか心が穏やかになれるような雰囲気のいい所だと思った。 「ご予約の方ですか?」 「いえ…。あの、望月綾人の……」 「………?」 受付に声をかけられ、言葉に詰まる。 俺の場合は何と言えばいい? 先輩が恋人の話をしてるのか、そもそも恋人が男ということを伝えているのか…? 家族でもない、男同士だから簡単に恋人とも言えない。 固まっていると、診察室から白衣を着た男性が現れた。 「私のお客さんです。どうぞ、中へ。」 「失礼します…。」 どうやらこの人が先輩の主治医らしい。 診察室に通され、椅子に座るよう促される。 「お話は電話で伺っていますが、念のためお名前と患者との間柄をお聞きしてもよろしいですか?」 「城崎夏月です。望月綾人の…、恋人です。先輩が朝起きなくて…、知り合いの医者を呼んで、そしたら薬の過剰摂取だと……。」 「はい。お話は伺っています。本当なら望月さんに直接お話ししたいですし、ここで得た患者の情報はご家族の方以外には話すことができません。」 「…………。」 「ただ、貴方にはお伝えしておかなければいけないことがあるので、少しだけお時間よろしいですか?」 「はい。」 「厳しいことをお伝えするかも知れませんが。」 「大丈夫です。」 背筋を伸ばして、先生の目を見た。 試すように見られているようで、緊張して変な汗が出る。 「城崎さん、これ以上彼を刺激しないでください。望月さんがここに通い始めたのはそれほど前ではありませんが、先週来られた時は、一週間でかなり回復していたんです。」 「それって…、俺と同棲した一週間で良くなったってことですか…?」 「そうでしょうね。貴方も見ていて気がついたと思います。望月さんの体調が良くなっていることや、笑顔が増えたこと。」 「もちろんです。」 やっぱり第三者から見ても、良くなってたんだ。 俺と同棲してから…。嬉しい……。 そんなホッコリも束の間、先生は俺に質問を始めた。 「ここ最近で、望月さんの様子がおかしかったり、変わったことはありましたか?」 「日曜日の夜…、嘔吐しました。」 「他には?」 「それから食事も睡眠もあまり取れていなさそうで、月曜日の朝も様子がおかしかったです。しばらくは治まっていた過呼吸や体の震えが、また始まりました。」 「それは貴方に触れられると?」 「はい。」 「原因に心当たりは?」 まるで尋問のようだ。 柔らかい口調なのに、驚くほど怖い。 それほど先輩のこころは危ない状況だったということだろう。 「聞いても答えてくれませんでした。…ただ、今日薬の殻を見つけた時に、一緒に原因と思われるものを見つけました。昔の俺の写真です。……先輩には辛かったと思います。」 「そうですか。」 先生は深くは聞いてこなかった。 何の写真か察してくれたのかもしれない。 その後、今日に至るまでの先輩の状況を話した。

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