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第110話
先生はノートに書き記し、ペンを置いた。
「先週、お薬の量を減らしたんです。倉科先生からお聞きになったかもしれませんが、望月さんが飲んでいる薬は依存性の高いものになります。だから、望月さんの精神状態を確認しながら、慎重に減らしていました。だけど、今回このような事態になった。」
「…………」
「先ほども申し上げた通り、貴方と過ごした一週間で彼は劇的に体調が良くなった。でも、何か一つ彼に負担がかかると、こんなにも急に悪くなるんです。」
「………はい。」
「分かりますか?あなたの行動、言動一つ一つが、彼にとって薬にも凶器にもなり得るんです。」
先生の言葉は、俺の心にしっかりと刻まれた。
俺の言葉や行動が、先輩を殺すことにもなるかもしれないということを。
「城崎さん、貴方を追い詰めたいわけではありません。貴方が気負いすぎてダメになることは望んでいませんし、そうなったら共倒れになります。」
「はい……。」
「今回の件もありますので、今後の内服管理は慎重にしなければいけません。望月さんが薬を飲みすぎていないか、逆に飲み飛ばしていないか、確認することは可能ですか?」
「できます。先生、それって、俺が持っていたらダメですか?」
「あまりよくはないかもしれませんね。処方上、1日2回や1日3回とお渡しすることはありますが、多少の時間のズレはいいんです。彼が不安が強くなった時に飲めるようにしてあげてください。」
「分かりました。」
じゃあ、寝る前に薬の数を確認するのが一番いいのかもしれない。
そう提案すると、先生も「そうしましょうか。」と賛成してくれた。
「薬は1日3回に戻しておきます。土曜日に予約入れてますので、望月さんと一緒にお越し下さい。」
「わかりました。」
「彼の目が覚めたら、まず最初に安心させてあげてください。それから、先ほどおっしゃっていた写真の釈明。薬の飲み過ぎについては土曜日に私からしっかりお伝えするので、城崎さんは望月さんを安心させることに全力を注いでください。」
「はい。ありがとうございました。」
深く頭を下げると、先生はにこりと笑った。
「お仕事でお疲れなのに、厳しいことばかり言ってすみません。」
「いえ…、とんでもないです。」
「心の病は薬ですぐに治るものではありません。少し時間はかかりますが、一緒に頑張りましょう。望月さんのこと、しっかりサポートしてあげてくださいね。」
「はいっ!よろしくお願いします。」
先輩がこの病院を選んだ理由が分かった気がした。
この先生なら信頼できる。
一度話しただけでそう思った。
薬を受け取り、病院を後にする。
帰りはスーパーに寄って、夕食の買い出し。
今日は卵粥にしよう。
あと、食べられなかったとき用にゼリーも買い足しておく。
走って家に帰ると、透さんと圭さんが待っていた。
「遅かったな。」
「先輩はっ?!」
「まだ起きてない。そろそろ目は覚めると思うから、俺たちは帰るぞ。」
「透さん、圭さん、本当にありがとうございました。」
「ん。」
「もっちーさん起きたら、俺にも連絡してね!」
透さんたちが帰っていって、家はシン…と静まり返った。
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