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第111話
先輩は寝息を立てて眠っていた。
抱きしめると、少しだけ身じろぎする。
「先輩…、起きて……。」
「ん……」
「起きないとキスしちゃいますよ…。」
先輩は本当に起きてくれるのか?
怖くなって、唇を重ねる。
唇を離すと、うっすらと先輩の目が開いた。
「先輩っ?!!」
「…………城…崎…?」
「先輩っ!!よかったぁ!!本当によかった……。」
丸一日眠っていた先輩は、ぼーっと俺を見つめる。
多分まだ夢と現実の区別がついていないんだろう。
「……今何時…?」
「もう20時ですよ…。」
「……………………え?えっ?!」
「はは。急に目が覚めた。」
先輩は目をぱっちり開けて、俺の腕の中で慌てる。
よかった…。
ちゃんと生きてる。動いてる。
「何?どういうこと?今日何月何日??」
「6月21日火曜日です。」
「仕事は?!」
「今日は先輩はお休みしました。連絡もしたから大丈夫。」
先輩は絶望した顔で、手で顔を隠した。
「大好き…。愛してる…。」
「な、何だよ、急に…!」
「不安にさせてごめんなさい。あの手紙、日曜日に来てたの?あれ見て、体調悪くなっちゃったんですか…?」
「……!!!」
先輩は驚いたように俺を振り返る。
やっぱり隠してたんだ。
「俺には先輩だけだよ。先輩以外いない。」
「あ…、あれが昔のだってわかってる…。分かってるから、言わなかった……。過去は変えられないし…、今の城崎は違う…から…。」
「うん。ごめんね。たくさん傷つけて、不安にしてごめんなさい。……でも、不安なことあったら話してほしい。どうにもできなくても、俺に相談してほしい。」
先輩を抱きしめる。
震えてもないし、息も荒れてない。
薬の効果かもしれないし、先輩の中で不安が和らいだのかもしれない。
でも、俺の中で少し安心したような顔をする先輩がただただ愛おしかった。
「先輩、土曜日は一緒に受診しましょう?」
「え……?」
「先輩、丸一日眠ってて心配で、ごめんなさい。服とか色々探りました。心療内科、通ってたんですね。」
「……!!」
「勝手なことしてごめんなさい。でも俺も一緒に向き合いたいから、先生のお話も聞いてきました。もちろん先輩が先生に何を話したかまでは聞いてません。あくまで、俺がするべきことを聞いただけです。」
一方的に抱き締めていると、先輩は不安そうに呟いた。
「重いだろ…。」
「え?」
「城崎の重荷になりたくない。」
深刻そうに言うから、何かと思ったら。
この人、本当に自分がどれほど愛されてるか分かってない。
「舐めないでください。俺の愛の方が100倍は重いですよ?」
「愛じゃなくて…、病気とか…だるいだろ…。」
「重くないし、だるくない。」
「治らないかもしれないんだぞ…?」
「それって一生そばにいていいってことですか?♡」
「お、おまえなぁ!俺が真剣に…」
「俺だって真面目に言ってます。」
「……っ!」
そう言うと、先輩は泣きそうな顔で黙った。
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