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第114話

朝起きると、俺の腕の中に先輩がいる。 先輩の体温が、これは夢じゃないと教えてくれる。 「……ん、城崎…?」 「おはようございます、先輩。」 「おはよぉ…」 起きそうでなかなか起きない。 「ん…」と唸っては、身じろいで俺の胸に顔を擦り寄せる。 は〜〜〜……、天国だ…。 「先輩、お仕事行かなきゃ…。遅刻しちゃうよ?」 「やだぁ…。休む……」 「二人でサボっちゃいますか?」 「だめぇ…。なんでそんな誘惑すんのぉ…。」 「ぷっ…(笑)先輩が言い始めたんでしょ?」 寝ぼけている先輩の観察をしていると、先輩は時計を見てハッと突然起き上がった。 「遅刻する…!!!」 「だから言ったじゃないですか(笑)」 「なんで起こしてくれないんだよ!」 「まぁまぁ。落ち着いて、先輩。」 ワタワタする先輩をぎゅーっと抱きしめると、先輩は俺に体重を預けた。 なんだ、このクソ可愛い生き物は…? 朝から先輩をたっぷりと堪能して、でもこんな理由で仕事をサボるわけにも行かず、なくなく出社した。 「綾人!!」 「涼真?」 着いて早々、柳津さんが先輩のもとに駆けつける。 先輩は不思議そうに首を傾げた。 「バカ!心配したんだぞ!?」 「え?」 「倒れたって聞いたから…。もう…、マジで心配した…。でもその様子を見るに、仲直りできたんだよな?」 「心配かけてごめん…。」 「無事でよかった…。」 「ちょっと?!!」 柳津さんが先輩を抱きしめる。 思わずストップをかけたけど、冷静になるんだ、俺。 先輩は俺に抱きしめられてる時と違って、眉を下げてる。 うん、これは謝罪のハグ…。うん…。 「今回だけですから!」 「悪ぃーな、城崎。」 「柳津さんにもお世話になったんで。」 柳津さんは先輩の体温や鼓動を確認して、安心したようにほっと息を吐いていた。 お世話になったと言えば、透さんと圭さんにもお礼しなきゃな…。 「先輩、帰り寄りたいとこがあるんですけど…。」 「ん?どこ?」 「透さん家。」 「倉科さん?」 先輩は不思議そうに首を傾ける。 あぁ、先輩は眠ってたから知らなかったんだっけ。 「うん。先輩が倒れたとき、電話して駆けつけてもらったんだ。それに、俺が仕事行ってる間は圭さんが先輩のこと見ててくれたし。」 「えっ?!そんな大事なこと早く言えよ!!」 「すみません。先輩が起きたことが嬉しくて忘れてました。」 「定時で上がって、百貨店で菓子折り買って向かうぞ。うわぁ…、マジか。俺そんなに色んな人に心配かけて……」 先輩は顔を青くしていた。 俺は先輩に罪悪感を持たせたいわけじゃないんだけどな。 「先輩」 「な、なに…?俺まだ何か…」 「なんでそんな顔するの?みんなが心配するのは、先輩が愛されてる証拠だよ?みんなも謝ってほしいんじゃなくて、感謝の方が喜ぶよ。ありがとうって、そう言って?」 「城崎……」 本心からそう伝えると、先輩は泣きそうな顔で頷いた。

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