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第124話
土曜日、朝一番に先輩とクリニックの定期受診に来た。
「順調ですね。発作なども起きていないようですし、またお薬減らしましょうか。」
「え!本当ですか?!」
「なしでも大丈夫そうですけど、最初に申し上げた通り、依存性の高いお薬ですから。しばらくは1日1回内服を続けて、2日に1回、3日に1回と離脱を目指しましょう。」
渡瀬先生にそう言われ、先輩は嬉しそうに頷いた。
体調がいいのは薬を飲んでるからと思いたくないんだろうな。
俺としては、薬を飲んで先輩が辛くないなら、それでもいいんだけど。
まぁ何も飲まなくていいなら、そりゃそっちの方がいいよな。
「では、次回の受診は7月16日にしましょう。」
「来週はいいんですか?」
「安定してきているので、二週間に一回の受診でも良いかと思います。もちろん何か不安なことや体調の乱れが出現したら、いつでもお電話ください。」
「わかりました。」
「先生、ありがとうございました。」
先輩と席を立ち、待合へ行こうとすると、先生に腕を引かれる。
俺が立ち止まったから、先輩も不思議そうだ。
「望月さん、少し城崎さんとお話してもよろしいですか?」
「え?はい…。」
「すぐ終わります。」
先生は俺を椅子に座らせ、先輩が診察室から出たのを確認してから話し始めた。
「城崎さんが支えてくださっているおかげですね。」
「え…、あ…、そうだといいんですけど…。」
「初診の頃じゃ考えられないくらい、今は健康体そのものに見えますよ。ただ、あれだけ脆い。弱った心は、小さな棘一つで簡単に崩れてしまいます。」
先生は俯いてそう言った。
何か経験があるのかな…。
含みのある言い方に、少し勘ぐってしまいそうになる。
「俺にできることは…」
「不安にさせないことです。望月さんの心の拠り所になる。それがあなたの役目です。」
先輩の心の拠り所になる。
願ってもない役目だ。
俺がそういう存在にならないと、今後一生一緒にいるなんて無理な話だろうし。
「それならおやすいご用です。先生、本当にありがとうございました。」
「ふふ。まだ終診になったわけじゃないんですけどね。」
「わかってますよ。先輩にはちゃんと最後まで通院してもらいますから!」
「よろしくお願いしますね。」
先生と話を終えて待合に行くと、先輩は俺を見てパッと表情を明るくした。
駆け寄ってきて、不思議そうに尋ねる。
「なんの話してたんだ?」
「先輩が元気になってよかったって話。」
「俺?」
「うん。しっかりお肉もついてきたし、いい感じです♡」
「ばっ…?!摘むな、バカ!!」
先輩のお腹を服越しに摘むと、先輩は顔を真っ赤にして俺を叩いた。
可愛いなぁ、本当。
「実家でも美味しいご飯食べてきてくださいね。」
「城崎には負けるけどな。」
「お母様の料理になんてこと言うんですか!」
「だってお前の料理に舌が慣れちゃったんだもん。」
「っ…!そ、それは嬉しいですけど…!」
先輩が嬉しいこと言ってくれるから、俺はあんまり言い返すことができなかった。
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