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第127話

誰が宥めても鈴香ちゃんが泣き止む様子はなく、久米さんがみんなに申し訳ないと帰ろうとした時、俺は一か八かで話しかけた。 「鈴香ちゃん、こんにちは。」 「………ぁ。えっと…」 「城崎です。城崎夏月。去年綾人さんと一緒にいたんだけど、覚えてるかな…?」 鈴香ちゃんはじっと俺を見た。 ………覚えてない…か。 鈴香ちゃん、先輩しか興味ないって感じだったもんな…。 「……覚えてる。」 「え?本当?」 「……一緒に家族ごっこしてくれた。」 「そうそう。覚えてたんだ?」 「だって…、お兄さん、ずっと鈴香のこと睨んでたんだもん…。」 うっ……。 それは鈴香ちゃんが先輩のこと独り占めしようとするからだし!! …って、こんなこと言ったら、先輩に『子ども相手に何マジに張り合ってんだ!』って怒られる…。 「………お兄さん、よく見たらイケメンだね。」 「え…?そ、そう…?」 「うん…。綾人が一番かっこいいけど、お兄さんは二番目にかっこいい。」 先輩が一番かっこいいってのは、俺も同意見。 もしかして、なかなか気が合うのか? そもそも先輩の魅力に気がついてる時点で、目利きはいいな、この子。 「綾人さんの代わりにはなれないかもしれないけど、今日は俺が相手でもいい?」 「………仕方ないからいいよ。」 「ほんと?」 「うん…。じゃあ川で遊ぼ?メダカさんがいるの。」 「あ、待って!」 鈴香ちゃんは靴を脱いでバシャバシャと川の浅瀬に入って行った。 子供一人は危ないから、俺も急いで靴を脱いで追いかける。 冷たい川の水に身震いする。 子どもはすごいな、これに飛び込めるなんて…。 「夏月!メダカさんいた!!」 「えー、どこ??」 「ここー!」 「あ、ほんとだ。いっぱいいるじゃん。」 メダカを追いかける鈴香ちゃんを見守りながら、俺も適度に遊びに付き合った。 しばらくすると、流しそうめんの準備ができたらしく、みんな集まっていく。 「鈴香ちゃん、行こっか。お素麺の準備できたって。」 「行く!夏月、抱っこして!」 「え〜…、濡れちゃうじゃん…。」 「抱っこしてくれないと行かない〜!!」 「うーん……。仕方ないなぁ…。」 去年先輩もびしょ濡れにされていたことを思い出して、それも悪くないのかな、なんて思って鈴香ちゃんを抱っこする。 案の定水浸しの鈴香ちゃんを抱っこしたら、俺もびしょ濡れになった。 こんなことになると思わなかったから、替えの服なんて持ってきてないしなぁ…。 上司に笑われながら素麺を食べていたら、聞き覚えのある大きい声が聞こえてきた。

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