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第138話

「あ、そうだ、城崎。」 先輩は思い出したように話を切り替える。 すげぇ無理矢理だな、おい。 「なんですか。」 「帰り、遅くなる。」 「なんで?」 尋ねると、先輩は口籠った。 なんだ?また何か隠してる? 「何でも。もう駅から家までの道も平気だし、大丈夫。」 「先輩が大丈夫でも俺が心配。どこに行くのか教えて?」 「本当に大丈夫だから!」 やっぱり。隠してる…。 次は何隠してるんだよ…。 「先輩の大丈夫が大丈夫だった試しなんてあります?」 「あ、あるよ…!もう!とにかく大丈夫だから!19時には帰るから!絶対!」 19時か…。 うーん……。 まぁ、今日一日くらい許す…か? 先輩の様子がおかしかったら探る…でもいいか…。 俺だって、先輩の自由な時間を奪いたいわけではないし。 「約束ですよ?」 「うん。約束。」 指切りをして、先輩とは別々に帰ることになった。 19時を1分でも過ぎたら探しに行く。 そう心に決めて。 スーパーに寄ってから家に帰って、夕食の準備をする。 スタミナ付けるために肉。 それからそれに合う色々。 先輩も男だから肉好きだし、いいだろこれで。 豚肉の生姜焼きを作り終え、時計を見ると18時55分。 そろそろ先輩を迎えに行く準備をするか。 火元の確認をして、玄関で靴を履いて、外に出ようとした瞬間に扉が開いた。 「ただいま。」 「おかえりなさいっ!先輩、今から探しにいくところでしたよ!!」 「ごめん。遅くなった。」 先輩は少しだけ息が乱れていた。 走ったのかな? 時計を見ると、時刻はちょうど19時だった。 「ピッタリ19時。連絡の一つくらいくれたっていいのに。」 「ごめんってば。」 「今日は豚の生姜焼き。残さず全部食べてくださいね?」 「うん。いつもありがと。」 「あと、お風呂の後は覚悟しててくださいね。」 「…………手洗ってくる。」 「あっ!先輩逃げないでくださいっ!!」 先輩は目を逸らして、洗面所へ逃げた。 まぁいい。後で捕まえるし。 茶碗にご飯をよそって、夕食の準備をする。 「美味そう…。」 「夏なんですから。ちゃんと疲労回復ですよ。」 「はーい。」 先輩は幸せそうに、俺の作ったご飯を完食した。

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