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第144話
次の日、俺は先輩を逃さぬよう朝からべったりと先輩の隣をキープしていた。
出勤から昼休みまで、なんならトイレも。
先輩はげんなりした顔で俺を見ていたけど、それくらい俺が心配してるってこともわかってほしい。
せめてどこに行くか教えてくれればいいのに。
言わないってことは、絶対に何か隠してるんだと思う。
「逆に聞きますけど、俺がいちゃダメな理由ってなんですか?」
「うーん……。今それを考えてるんだけどさ…」
は?考えてる?
「ないなら一緒に行かせてくださいよ。納得できる理由なら諦めもつきますけど。」
「城崎が納得できる理由を言える自信がない。」
「じゃあ俺もついていきます。」
理由がないなら俺がついて行ってもよくないか?
そう思うのは俺だけ?
一緒に行くなら、先輩に何があっても守ってあげられるし、こうしてストーカーのように付き纏う必要もなくなるのに。
「だーめ。」
「なんでですか。」
「なんでも。」
俺を黙らせる理由は思いつかないのに、俺をついてこさせる気はないらしい。
先輩をずっと見張りながら仕事を続ける。
トイレに抜けても、資料室に行くのも全部ついていく。
こんなにしつこく付き纏うの初めてじゃないかと思うくらいに。
「城崎〜。F社からお前宛に問い合わせの電話来てるぞ。対応できるか?」
「えっ?!」
定時まで残り15分を切った頃、俺宛に電話が入った。
しかもF社って、つい最近俺が契約つけてきた営業先じゃねぇか。
なんでよりによって今なんだ?
朝からずーっと時間あったじゃんか。
先輩から目を離したくなくて止まっていると、部長は俺を見て笑顔になった。
「なんだ?手、空いてるじゃないか。頼んだぞ。」
「ちょ、部長!待って……!」
部長が転送ボタンを押し、俺のデスクの固定電話が鳴る。
最悪…。
「城崎、頑張って。」
「は?もしかして帰る気?」
『ラッキー♪』と分かりやすく顔に書いてある先輩の腕を掴む。
朝からずっと帰りのために…。
先輩、分かってるよね…?
「おーい、城崎!早く出ろ!」
「あーーーっ!もう!!」
部長に急かされて電話を取る。
先輩は俺の腕を振り払い、帰り支度を始めた。
『もしもし。F社担当の西ですが、突然申し訳ございません。先日の説明の件で……』
あ〜〜〜。
早く終われ。早く終われ終われ終われ。
心の中でそう呟くも終わるはずはなく、時計が定時を指した瞬間、先輩は逃げるように帰って行った。
「あの…っ!質問あとどれくらいありますかね…?」
『えー…、あと2つほど…』
「そ〜ですかぁ……。」
終わった……。
この無能。あれっっだけ丁寧に説明したのに、なんで質問がこんなに多いんだよ?
というか、質問されてる内容、営業に行った時にも説明したんだけどな?!
「城崎さーん、顔。顔。」
「うっせ。見えないからいいんだよ。」
「怖…っ!貧乏揺すりやめてください…。」
隣にいたちゅんちゅんに小声で指摘されるが、俺は苛立ちすぎて口が悪くなっていた。
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