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第145話
先輩が帰って30分が経った頃、ようやく電話が終了した。
「あんな無能会社、二度と契約しねぇ…。」
「し、城崎さんっ!まぁまぁ…。」
「最悪……。家で待つしかねぇじゃん…。」
絶望してデスクに突っ伏す。
ありえない。
もしこれで先輩に何かあったらと思うと…。
とにかく家に帰って先輩を待とう。
「城崎、何の電話だったんだ?」
「………不明点の質問です。」
「城崎が説明行ったのに珍しいな。」
「俺はちゃんと説明したんですけどね…。」
部長に嫌味ったらしくそう言い、俺は会社を後にした。
先輩を探しに行きたいけど、居場所も分からないまま探すなんて無謀すぎる。
とにかく家に帰って、それから……。
居なかったら探しに行く?
思い当たる場所なんてあるか?
焦りながら帰り道を歩いていると、駅から家までの道のど真ん中でしゃがみこんでいる人影が見えた。
あれって……?!
「え……?先輩っ?!」
「し……さきっ…」
「どうしたの?何かあった?」
俺は慌てて鞄を放って、先輩の元に駆け寄る。
また過呼吸になってる…。
両手で俺を抱きしめ、背中を一定のリズムで叩いた。
「大丈夫だよ。先輩、大丈夫。落ち着いて。」
「ヒッ……、はぁっ…はっ…」
「ゆっくり息吸って…。そう、大丈夫だから。」
先輩は俺のシャツを掴んで、必死に呼吸を整える。
目は赤く腫れていて、顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
一体いつから泣いていたんだろう。
やっぱり一人にするべきじゃなかったんだ。
先輩の様子がおかしいって、分かってたのに。
「周りの人も心配してるから…。」
「……ごめん。」
主婦や小学生、会社帰りのおじさん。
通りがかる人がチラチラこちらを見ていて、気分が悪かった。
先輩がこんなに苦しそうにしてるのに、好奇の目を向けられるのが気持ち悪かった。
「一緒に帰ろ?」
「うん……。」
先輩の手を握り、家に向かって歩く。
先輩の足取りは重く、なかなか前に進まなかった。
これ、もしかして…。
また、フラッシュバックみたいなのが起きてるんじゃないだろうか…?
「先輩、大丈夫…?」
「…………」
顔色は悪くて、意識してゆっくり呼吸をしているようだった。
家に入ったら、もう一回優しく抱きしめてあげよう。
そしたら、きっと俺も先輩も安心できる。
幸せホルモン出てるねって、笑ってそう言ってくれたら…。
先輩と歩く帰り道は、久々に静かだった。
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