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第146話

玄関のドアを開けた瞬間、先輩は俺の手を振り切って部屋へ逃げ込んだ。 あまりにも一瞬の出来事すぎて、俺はポカンと口を開けていたけど、慌てて我に返る。 追いかけると、先輩の部屋の鍵がカチャンと音を立てた。 は……? 「先輩っ?先輩、どうしたの?!開けて!!」 鍵閉めるとか、絶対良くないこと考えてるだろ。 何?あんな不安そうな顔して何する気…? 先輩の部屋……。 ベランダはなくて、だから飛び降りるとかはなくて、ハサミは?あった? てか俺、なんてこと考えてんだ…。 「先輩っ!先輩!!開けて!!」 ドアを叩き、ガチャガチャドアノブを捻るけど開かなくて、どうすればいいかわからなくてとりあえずドアノブを破壊した。 中に入ると、先輩は真っ青な顔で立っていて、足元には薬の殻が散らばっていた。 まさか……。 また薬を…? 「先輩っ?!」 先輩を座らせて、喉奥に指を突っ込む。 吐かせないと…。 「おえっ…!ゲホッ…、おっ……」 「全部吐いて!!」 「うっ…、おえぇ…」 ビシャビシャッ…。 やっぱり。 無理矢理嘔吐させた吐物の中には、薬と思われる白い粒がいくつもあった。 先輩の足元に落ちてる包装シートから考えて、飲んだ数は12錠。 「1、2、3、………」 「…城崎、汚いから…」 「うるさい。黙ってて。」 溶けかけの粒の数を数える。 6、7、8、…… 「………12。全部あるよね?……はぁ。」 12錠あることを確認し、ひとまず安心した。 怖かった。 先輩が死んだら俺は……。 「ゲホッ…、うっ……」 「バカ!!!」 パシンッと部屋に大きな音が響いた。 俺が先輩の頬を叩いた音。 初めて先輩を()った。 先輩は何が起きたか分かっていないのか、キョトンとした顔をしていた。 「死ぬ気ですか?!バカ!先輩のあんぽんたん!!」 「…城崎……」 生きててよかった…。 先輩が俺の名前を呟いただけで、こんなにも安心する。 「先輩、やだよ……。お願い…、死なないで。何が不安なの?全部話してよ……。」 先輩を抱きしめる。 俺の命に変えても大切な人。 生まれて初めて好きになった愛しい人。 この人がいないと、俺は生きていけないんだ。 もうこんな思い、二度としたくないって思ったのに。 俺が守れなかったせいだと、自分の行いを悔やんだ。

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