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第147話
「ごめん…なさぃ……。」
先輩は泣きながら謝った。
謝ってほしいんじゃない。
とにかく無事でよかった…。
「やっぱり一人で帰すんじゃなかった。仕事なんかより、先輩を優先するべきだった。」
「違う…。城崎は悪くない…。ごめんなさい……。」
「誰が悪いとかどうでもいいんです。もう…、本当に怖かった……。」
声が震える。
少しでも遅かったら、先輩は死んでいたかもしれない。
先輩の体温に、こんなにも安心する。
「もう…、俺なんか放っといて…。」
「なんかってなんですか。怒りますよ。」
「だって…。」
先輩がまた自己嫌悪に陥っている。
今すぐにでも渡瀬先生に診てもらった方がよさそうだな。
こんな状態なのに、薬もないし…。
「先輩、今すぐ病院行きましょう?吐き出したけど、心配だから。」
「いい…。大丈夫…。」
先輩はふるふると横に首を振る。
「俺が不安なんです。ダメ?」
「……行かない。」
こうなると先輩はなかなか聞かない。
頑固なのも考えものだな…。
さっきもう十分怒ったし、これ以上は先輩を不安にするだけだ。
優しく先輩を抱きしめて考える。
あとで先輩が眠ってから診てもらおう。
そうじゃないと、この人絶対に診察拒否するし。
先輩の頭を撫でていると、左頬が赤くなっていた。
俺が打 ったからだ…。
指で優しく撫でると、先輩は目を閉じた。
「ごめんね。赤くなってる…。痛い?」
「ううん…。」
「ちょっと待ってて。」
先輩の頭を撫で、部屋から出る。
頬を冷やすための保冷剤。
それに吐いて少し汚れてしまった先輩を拭くための温タオル、床拭きのための雑巾とビニール袋を持って部屋に戻る。
「先輩、とりあえず体拭こ?」
「ん…」
先輩の服を脱がせてタオルで拭いて、肩からバスタオルをかけた。
いつもなら先輩の裸を見たら興奮するのに、今は冷静だ。
そりゃ、死ぬか死なないかってことがあったばかりなのに興奮するほど、俺は馬鹿じゃない。
先輩に保冷剤を渡し、俺は汚れた床を掃除した。
床を拭きながら尋ねる。
「………先輩、いつなら話してくれる?」
「え……?」
「先輩が言ってくれるまで待つから。だからちゃんと教えてください。俺、どうすれば先輩が不安にならないか、ちゃんと考えるから。」
先輩は無言を返した。
答えに迷っているのか、それとも答える気がないのか。
無理矢理はあまりよくないんだよな、きっと…。
「お風呂沸かしたから入ってきてください。まずは体温めて、それからご飯食べて今日は寝ましょう?」
「分かった……。」
先輩を浴室に連れて行き、風呂に浸からせる。
その間に煮込みうどんや長芋のすりおろし、あと口当たりのいいようにアイスなどを準備した。
食欲がない時に量が多いと食べる気を無くすから、全部少しずつ。
そしたら先輩は全部食べてくれた。
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