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第148話
「どこで寝ますか?」
「俺の部屋…。」
「俺も隣で寝てもいい?」
「………うん。」
絶対何かがあった。
またベッドで寝れなくなったのは何が理由?
前から教えてくれないんだよな…。
多分、その原因のことを思い出してしまったとか、そんなところだろうか…。
隣で横になると、先輩は俺の服をギュッと握った。
不安なんだろう。
安心できるように優しく抱きしめた。
「おやすみ、先輩。」
「うん……、おやすみ……」
先輩はしばらく眠らなかったが、30分ほどして寝息を立て始めた。
21時…、いけるか…?
わたせクリニックの診察券を見て、電話をかける。
『もしもし。心療内科わたせクリニックです。』
「先生、診療時間外にすみません。城崎です。」
『城崎さん?どうかされましたか?』
「実は、先輩がまた薬を一気飲みしてしまって…。すぐに気づいて全部吐き出させたんですけど不安で…。今から診ていただくことは可能ですか?」
『そうですね…。来院はできそうですか?』
「難しいです。先輩、受診を拒否してて…。なので本当にお手数なんですが、往診など対応していただけないでしょうか?今やっと先輩が寝付いたところで…。」
断られることは承知の上で、無理なお願いをした。
透さんみたいに知り合いならともかく、数多くいる患者のうちの一人、特別扱いしてくれるはずがない。
でも透さんは精神科や心療内科は専門外だし…。
『分かりました。』
「えっ…?」
『診療時間外で往診になるので、費用はかなり掛かりますが…』
「いいです!お金なら出します。大丈夫です。」
『では念のため住所を伺ってもいいですか?』
先生に住所を伝え、今から来てくれることになった。
よかった…。
お茶の準備をして待っていると、1時間ほどして渡瀬先生が来てくれた。
「すみません。お呼び立てしてしまって…。」
「こんばんは。望月さんの様子はいかがですか?」
「今はぐっすり寝てます。先生、どうぞ中に。」
「失礼します。」
先生を中へ通し、部屋に案内した。
壊れているドアノブを見て、先生も何かを察したらしい。
眠る先輩の手首に触れて脈を測り、血圧、体温、それに胸の音や瞳孔も確認していた。
「採血もしておきましょうか。」
「よろしくお願いします。」
先生が採血をしている間も、先輩は全く起きる様子はなかった。
それがおそろしく不安を煽ったけど、診察した結果としては大丈夫そうだと先生は言った。
「薬は2錠に増やしましょう。薬に頼ることはあまりしたくありませんが、望月さんの気持ちも少し楽になると思います。何度も増減して申し訳ありませんが、無理に減らすのも良くないので。」
「わかりました。」
「あと、これからは城崎さんが薬の管理をするようにしてください。いつでも飲めるようにと思っていましたけど、二回もオーバードーズがあるとさすがに看過できません。二度あることは三度あると言いますから。時間を決めて、1日2回飲ませてあげてください。」
「はい。」
「はい。お大事にしてください。望月さんが来院できそうならお電話ください。難しければ予定通り16日に来てください。」
「わかりました。先生、ありがとうございました。」
マンションの下まで先生を見送り、タクシー代と共に代金を渡した。
タクシー代は断られたけど、ここまで来てくれた気持ちというか…。
とにかく先輩が無事でよかった。
俺は風呂に入ってから、先輩を抱きしめて眠りについた。
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