149 / 242
第149話
朝、腕の中で眠っている先輩が身じろいで、俺は目を覚ました。
「………先輩、おはよ…。」
「おはよ…」
声に元気がない。
どうしたら先輩は元気を出してくれるだろう?
抱きしめながら、いろいろ提案してみる。
「まだ5時ですよ?二度寝する?」
「……うん。」
「朝何食べたいですか?特別に好きなの作ってあげます。」
「なんでもいいよ。簡単に作れるものでいいから、城崎ももう少し寝な。」
ふわっふわのパンケーキとか、甘くてとろとろのフレンチトーストとか、わがままの一つや二つ、何でも聞くのに。
俺の睡眠時間なんて気にしなくていいのにな。
「優しいなぁ。我儘言っていいのに。」
「いい…。そばにいて…。」
?!
突然の可愛いお願いに驚いた。
大好きな朝ごはんよりも、俺と一緒に寝てたいってこと…?
可愛すぎて死ぬ。
優しく抱きしめると、先輩は落ち着いた表情で俺の胸に顔を埋めた。
1時間半程ゆっくりして、7時前には支度を始める。
朝は簡単にベーコンエッグとトースト、それにサラダ。
残さず食べてくれたことに安心した。
先輩が着替えに行ったのを見て、俺は薬と水を準備する。
驚かせてしまうだろうか。
でも、薬を飲んでいる方が先輩の心も楽になるって…、先生もそう言ってたし。
「先輩、朝の分の薬飲みますか?」
「え……?」
案の定、先輩は戸惑っているような表情を見せた。
そりゃそうだよな。
昨日飲み切ったはずのものを俺が持ってたら、なんで?って思うよな。
「今なんで?って思ってるでしょ。もらってきたんです。これ飲んだ方が気持ちが楽でしょ?」
「うん……。」
「今日も頑張りましょうね。」
抱きしめると、先輩はいつもみたいに抱きしめ返してくれた。
でも、その手にはあまり力がこもってなくて、ただ添えられているだけのような感じがした。
「城崎……」
「なんですか?」
「俺のこと……、好き……?」
先輩は不安そうに俺を見つめた。
当たり前だ。
当たり前なんだけど、不安定なときの先輩はそんな当たり前なことすら分からなくなってしまうんだろう。
「大好きです。愛してる。……言葉って難しいですね。こんな言葉じゃ足りないくらいなのに…。」
「うん…。俺も…好き……。」
「嬉しい。今日も頑張れそうです。」
「ん…。」
伝えても、先輩の表情は曇ったままだった。
難しいな…。
どうすれば先輩は元気を出してくれるんだろうか。
解決策が思いつかないまま、仕事に向かった。
ともだちにシェアしよう!