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第150話
先輩の顔色が悪いのは、俺以外にも分かるほどだった。
朝から挨拶するたびに心配される先輩は、「大丈夫?」と聞かれるたびに困ったように眉を下げる。
先輩の性格のことだから、みんなに心配させてしまってることに対して、申し訳なくなってしまっているんだろう。
先輩の仕事をできるだけメンバーで請け負いながら、気づけば昼休み。
リフレッシュさせてあげたくて、先輩を外食に誘った。
今日はゆっくりしてて、お弁当も作れなかったから。
「先輩、今日は外で食べませんか?良さそうなところ見つけたんです。」
「あぁ…、うん……。」
「食欲ないですか…?」
「あんまり…かな…。」
またか…。
最近の先輩、やっと食べるようになってきたのに。
体調やメンタルを崩しては、こうして食欲がなくなる。
食欲がなくなると全く食べなくなるか、食べても吐き戻してしまうから、相当弱っているんだと思う。
「…………先輩、ちょっと来て。」
先輩を談話室に連れ込み、ドアを閉め、ブラインドも閉めた。
抱きしめると、先輩はピクっと震える。
「やっぱり話してほしい…。言いたくない…?」
「……ごめん。」
「どうして?話してくれればきっと…」
「ごめん。俺が弱いだけなんだ…。ごめん…。」
先輩は話そうとはしなかった。
こんなに辛そうにしている先輩を助けられないなんて、悔しくてたまらない。
しかも、最近の先輩の悩みは俺のことだ。
多分、今回も…。
原因である俺が、これ以上先輩を苦しめてどうするんだよ。
聞いてあげたいのに、それ以上聞き出すことはできなかった。
昼休みが終わり、先輩は俺から逃げるように部署から姿を消した。
追いかけようとしたとき、部長から名指しで声がかかる。
「城崎。すまないが、今からここに出向いてくれるか?」
「どちらですか。」
「お得意先だ。粗相のないように頼むぞ。」
どうしてこうもタイミングが悪いのか。
昨日も電話さえ来なければ…。
なんて後悔しても戻れるわけではない。
部長からの仕事を引き受け、俺は会社を後にした。
仕事を終えて会社に戻ると、先輩がデスクでうとうとしていた。
前髪を分けると、先輩は起きてぱちぱち…と瞬きをした。
「城崎……?おかえり…。」
「ただいま。もしかして、待っててくれたんですか?」
「うん…。一緒に帰る…。」
抱きしめたい気持ちを抑え、先輩とともに帰路につく。
帰って抱きしめて、食事終わりも、寝る前も、何度も先輩を抱きしめた。
でも先輩の表情はやっぱり晴れなくて、先輩はずっと何かを考えているような、悩んでいるような、困ったような顔で俺に抱きしめられていた。
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