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第154話
もう一度探しに外に出ようとすると、インターホンが鳴った。
先輩かと思って急いで玄関先まで行くと、そこに立っていたのは柳津さんだった。
「…っ、紛らわしいな……。」
「おいおい。心配してきてやった先輩にそれはないだろ?」
「退いてください。今から先輩探しに行くので。」
「は?おまえ綾人のことになると、本当馬鹿になるよな…。」
柳津さんは玄関から退いてくれなかった。
それどころか俺の手を掴んで、中に入っていく。
「離してください!先輩の身に何かあったら責任取ってくれるんですか?!」
「おまえなぁ…。一旦落ち着けよ。綾人だって大人なんだから、金だってあるし適当になんとかするだろ。」
「でも……」
「ただの家出かもしれないだろ?」
ただの家出…。
そうなのかな…?
俺、一回家出されてるもんな…。
でも冷静になれるわけないじゃん…。
柳津さんの家にも居ないなら、先輩は今どこにいるの?
「先輩が死んじゃったらどうしよう…。」
「あのさ…。さっきからなんでそんな物騒なこと言うわけ?何かあったのか?一昨日って何?たしかに昨日、綾人の顔色悪かったけど。」
「………また、薬を一気飲みしたんです。すぐに吐かせたから何事もなかったんですけど、気づけなかったら死んでたかもしれない…。」
「は?」
「それくらい先輩の心は追い込まれてるんです…。俺のせいかもしれない…。どうしたら先輩のこと救えますか?俺が離れたらいいのかな…。」
「城崎……」
「もうどうすればいいか分からない…。」
先輩を助けたい。
でも、もう俺じゃ無理なんじゃないかって。
俺のせいで先輩が苦しんでいるなら、俺が離れた方が先輩にとって幸せなのかもしれない。
離れたくないけど、先輩には幸せでいてほしい。
本当は俺の隣で笑って過ごしてほしいけど、俺がいたら幸せになれないっていうなら、俺は先輩から離れる。
それくらい、先輩のこと愛してる。
「綾人の自己評価の低さは昔から知ってるんだけどさぁ…。」
「……なんですか、急に。」
「いやぁ、おまえの自己評価の低さも大概だなって。」
「は…?」
「だって、あんなに綾人に愛されてるのに、離れるとかいう選択肢出てくるの笑える。」
真剣に考えてたのに、柳津さんは俺のことを鼻で笑った。
腹が立って柳津さんに噛み付く。
「なっ…?!俺は先輩のことを思って…!!」
「綾人のこと思って?笑わせんなよ。」
「………」
「あんなに真剣におまえとの将来考えて、毎日死ぬほど幸せだって顔してたのに、おまえは綾人のどこを見てたんだよ?」
柳津さんに言われて思い出す。
毎日俺の隣で幸せそうに笑っていた先輩を。
けど、今の先輩は本当に辛そうで…。
心も体も弱って、原因は俺だってなんとなく分かっているから、だから俺は…。
「でも……」
「逆にお前がいなくなったら、それこそ綾人は悲しむんじゃね?一生笑わねーかもよ。いいの、それで?」
「………よくない。」
「今は色々あんのかもしんねーけど、綾人の本音も聞かずに勝手に決めつけて離れんのだけは許さねぇからな。」
柳津さんは俺の目を見てそう言った。
悔しいけど、少しばかりこの人のこと格好良いなんて思ってしまった。
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