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第156話
朝からありとあらゆる場所を探した。
今までデートに行った場所、元住んでいた家、Aquaや初めて二人で行った居酒屋、ホテルに神社に美容院。
さすがに県外までは探しに行けなかったけど…。
どこにも先輩はいなかった。
入れ違いになっている可能性だってある。
『どうだった?』
「見つかりません…。どうしよう…。連絡もつかないし…。」
『俺の方も、みんな知らないって。実家にも帰ってないみたい。』
20時、柳津さんから連絡が来た。
実家でもないとなると、本当にどこにいるのか分からない。
実家が最有力候補だったのに。
『明日仕事に来るのに賭けるしかないな。今日ももう遅いし。』
「俺、もう少し探してみます。」
『当てはあんのかよ?』
「ないですけど…。」
先輩が行きそうなところは全部探した。
当てもなく探し続けることがどれだけ無謀なことかも理解してるつもりだけど、でも何もせずにはいられなかった。
『俺、これでもお前のことも心配してんだけど。どうせ昨日寝てないんだろ?』
「目は瞑りましたよ…。」
『頭が休んでねーよ、それ。マジで寝ろ。』
「寝れるわけないでしょ…。」
『まぁでも、俺も彼女が行方不明になったら寝てるどころじゃないかもな。』
柳津さんは俺の気持ちを汲んでくれて、でもその上で寝ろと言う。
先輩は大人の男だから大丈夫だって。
先輩が男らしくて頼れるのは知ってるけど、でもやっぱり先輩の弱いところも知ってしまってるから、俺は不安で仕方ない。
「やっぱりもう少しだけ探してみます。」
『そっか。遅くなりすぎないようにな。』
「はい。」
柳津さんとの電話を切って、また外に出る。
もしかしたら、近くのホテルやネカフェに泊まってるかもしれないし…。
繁華街や公園、念の為ゲイタウンや歓楽街も探し回った。
キャッチや風俗嬢に捕まっては勧誘を拒否していると、一人しつこい風俗嬢がいた。
「なんで〜?ゆっくりしてこーよ?お兄さんならイケメンだから無料でもいいよ?」
「しつこい。人探してるから、離して。」
「人〜?どんな?見して?」
「なんでだよ。」
「だって私いつもここに立ってるしぃ〜。もしかしたら見たことあるかもよ?」
そうか。その手があったか。
風俗嬢に先輩の写真を見せてみたけど、この辺では見てないと返された。
それからは、キャッチやホームレスに逆に話しかけては、先輩の写真を見せて目撃情報を探す。
「あ?見たよ、この人。」
「えっ?」
Aquaの近くでキャッチをしていた若い男が、先輩の写真を見てそう言った。
「いつ?!」
「あー…、たしか木曜日だったかな?なんか可愛らしい男の子と言い合いして…。で、最終的にその写真の人が気分悪そうにどっか行った。」
木曜日って…。
先輩が薬を一気飲みしたあの日だ。
可愛らしい男の子って、まさか那瑠のことか?
先輩は俺に黙って那瑠に会いに行ってた?
なんで?それがきっかけであんなに体調を崩したのか?
何を言われた?
「ありがとうございました。」
「ん。お役に立てたならよかった。」
お礼を言ってその場を後にする。
原因がわかっても、先輩が見つかるわけじゃない。
結局終電の時間まで探し回ったけど、先輩はどこにもいなかった。
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