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第159話
近づこうとすると、柳津さんが俺の両手首を押さえて後ろで拘束した。
ちっ…。
「先輩のこと本当に抱いたのか…?」
「あはは。嘘ですよ。本当、城崎くんは主任のことになると周りが見えなくなりますよね。」
「は?」
「冗談半分で主任のこと抱いたふりをしたんです。主任、青褪めて家を出て行ってしまいました。それはもう絶望した表情で。」
ヘラヘラ笑ってる目の前の男が、どうしようもなく醜い化け物に見えた。
バキッ…!
柳津さんの手を振り払って放った右ストレートは、綺麗に蛇目の左頬にヒットした。
「……ったぁ。いいパンチ持ってますね、城崎くん。」
「ああ〜〜!もう!城崎のバカ!!何してくれてんだよ?!」
「俺、先輩のこと探してきます。」
「その前に怒られるのが先だわ、このバカ!!」
柳津さんは青褪めて蛇目に肩を貸す。
何で助けるんだよ。
そんな奴、放っておけばいいのに。
「城崎!!!」
「はい。」
「こっちに来なさい。」
部長は会議室に入ってきて、この光景を見て俺が悪いと決めつけた。
暴力を振るった俺は悪か?
先輩を傷つけたあいつは悪じゃないのか?
「おい、城崎。聞いてるのか?」
「何ですか。」
「明日から三日間、自宅謹慎だ。今日はもう帰りなさい。」
だそうだ。
謹慎なんて、するわけないけど。
先輩を探しに行くに決まってる。
「そうですか。じゃあ帰ります。」
「あ、こら!!ちゃんと反省しろよ?!」
鞄を持って帰ろうとすると、後ろの方から部長のお叱りが飛んでくる。
心底どうでもいい。
反省はしてないし、する気もない。
先輩を傷つけた奴を懲らしめて何が悪いんだ。
みんな何も分かってない。
自分が俺の立場なら、きっとみんな同じことをするだろう。
俺は恋人のために怒っただけだ。
自分が人のために、こんなにも怒りの気持ちを持つなんて思わなかったな…。
一旦着替えるために家に戻る。
動きやすい服に着替えて、まずは電話をかけた。
今まで散々出てくれなかった先輩が今更応答してくれるわけもなく、留守番電話を入れる。
「先輩…、お願い。声だけでも聞かせてください…。」
自分でも分かるくらい声が震えてた。
先輩がそばに居ないことが辛い。
隣に居て、愛したい。
居ても立っても居られなくて、俺は先輩を探しに外へ出た。
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