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第160話
やっぱりどこを探して回っても、先輩が見つかることはなかった。
先輩はどんな思いで俺の元を去ってしまったんだろう。
ただでさえ那瑠と会って不安定になっていた精神状態で、蛇目と寝たと勘違いしていたら、先輩の心は崩れかかってるんじゃないか?
それに、薬も土曜日の朝から飲んでいない。
俺の手元にあるからオーバードーズで命を落とすことはまずないが、もし精神が崩壊して自殺行為にまで走っていたらどうすればいい?
落ち着け、俺……。
職場に連絡があったんだから、生きてはいるんだ。
どうしても最悪な方向に思考が働いてしまって、何度も首を振っては頭の中を修正する。
先輩、きっと大丈夫だよね…?
命に関わるようなことにはなってないよね?
俺、先輩がいなかったら……。
「あー…、だからダメだって…。」
早く先輩からの連絡が欲しい。
笑った顔が見たい。
先輩の声が聞きたい。
先輩の体温を感じたい。
謹慎になったのをいいことに、俺は今日も終電の時間まで先輩を探し回った。
基本的に外を探し回ってるけど、そういえば先輩の部屋って…。
家に着いてすぐ、先輩の部屋に入る。
つい数日前と部屋の物の位置は変わらない。
前の家出の時みたいに計画的なものではないことがわかる。
ふと先輩のデスクを見て、手を止めた。
「これ……」
俺は先輩の財布を手に取った。
カードも免許証も、全部入ってる。
先輩は財布を忘れていった?
改札通る時はICカード使ってたよな…。
残高はそんなにないはず。
ということは、先輩はそんなに遠くまでは行ってないのか?
財布を持っていないとなると、別の心配が次々と増えていく。
ご飯は食べてる?
水分はさすがに取ってるよな…?
ちゃんとベッドで寝てるのか?
もしかして、帰らないじゃなくて、帰れない…だったり?
いや、違うな…。
帰れないだとしたら、仕事の連絡よりも先に俺に電話をかけてくるだろ…。
「ああ〜……、もう。わかんねぇ……。」
電子化の進んだこの時代、スマホ一つあれば電子マネーを使うことだってできる。
スマホの充電があれば…の話だけど。
それに、東京なら電子マネーで大抵の支払いができるかもしれないが、田舎の方だと使えないところもあるだろう。
そもそも先輩も俺も、普段電子マネーなんて使わないから、その発想に至ってない可能性も…。
不安だらけになって、シャワーをして身なりを整えてから、またすぐに外に先輩を探しに出発した。
日付を跨ぎ、もうネオン街以外は暗くて静かだ。
先輩はもう帰ってこないのか…?
こんなに探してもいなくて、音信不通で、先輩がいなくなってもう4日目になった。
せめて俺のことが嫌いになった、別れると言われた方がどれだけ安心か。
もちろん別れる気はない。
先輩の無事を知りたいっていうだけなんだけど。
空が明るくなってきた。
もうすぐ陽が見え始めるのだろう。
一晩中探し回って、目が霞んできた。
少しだけでも休憩しようと、一旦家に帰る。
玄関で気を失うように眠った。
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