162 / 242

第162話

高速道路を使って1時間半。 辿り着いたのは、山梨県の山間部。 外灯も少なくて暗くて、山が近いせいか夏なのに肌寒い。 送られてきた位置情報はこの辺りだ。 古びた公園。 周りには家も少なくて、日中でも人気(ひとけ)がなさそうな場所。 「先輩…?先輩、どこですかー?」 近所迷惑にならないように、声のトーンを落として呼びかける。 パッと見た感じ、公園に人影はない。 でも、位置情報はこの公園を示してるんだよな…。 雨が降ったのか、ぬかるんだ地面。 ここまで冷え込んでいると、夏なのか疑いたくなる。 この公園で唯一雨除けができる場所…。 いや、まさかな……。 そう思いながら土管の中を覗き込むと、そこには先輩が倒れていた。 「先輩っ?!!」 引き摺り出したら土管に擦れて怪我しそうだし、だからと言ってここから出さないのも…。 「ごめんね、先輩…。後で消毒するから…。」 先輩の腕を引っ張り、土管から助け出す。 先輩の肌は真っ白で、呼吸は浅く、体は完全に冷え切っていた。 「先輩っ…、先輩!」 「…………」 「目ぇ開けて…。お願い……。」 ギュッと強く抱きしめると、僅かに指先が動いた。 パッと体を離して先輩の顔を見ると、薄らと目が開く。 「………しろ…さ…き…?」 「先輩っ!!先輩、よかった…。」 両腕で力強く抱きしめる。 痛いって怒られるかもしれないけど、もう二度と離したくない。 だけど、先輩は弱々しく俺から距離を取ろうとした。 「……城崎…やめて…。……汚いよ、俺…。」 「何言ってるんですか!汚いわけないでしょ?!」 「…臭いし……、汚いし…、それに…」 「それ以上俺の先輩を侮辱するなら怒りますよ。」 少し汚れてるくらいがなんだ。 そんなことどうでもいいくらい、先輩が今俺の腕の中にいることが重要なのに。 先輩の拒否を無視して抱きしめていると、先輩は俺の服の裾を引っ張った。 「………やっぱりやだ…。」 「何が?」 「…汚い…から……。」 「俺が気にしないって言っても?」 「……うん…。」 なかなか頑固だ。 本当は先輩が溺れるくらい愛を伝えて、めちゃくちゃ甘やかした後に、今回の件全部誤解を解くのも含めて話をしたかったんだけど。 まずはお風呂…かな? 「じゃあホテル行こ?」 「え……。」 「お風呂入ったら抱きしめてもいいってことでしょ?」 「………」 「それに先輩、めちゃくちゃ冷たいし。早く(からだ)温めないと。ほら、行きますよ。」 戸惑う先輩を抱きしめて助手席に乗せ、持ってきていた毛布でぐるぐる巻きにして、近くにあるホテルを探して出発した。

ともだちにシェアしよう!