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第166話
目を開けると、スヤスヤと先輩が眠っていた。
よかった…。夢じゃなかったんだ。
頬や唇を指でなぞっていると、先輩の瞼がわずかに動く。
ゆっくりと姿を見せた瞳は、俺を映して大きく開いた。
「先輩、おはよう。」
「城崎…っ!し、仕事は??」
「休み。先輩も休みの連絡入れないとですね。」
休み……ではなく謹慎なんだけど。
無駄な心配させたくないし、言わなくていいことだから黙っておく。
「俺は連絡大丈夫…。部長が今週は体調整えるために休めって言ってくれたから…。」
「あ、そうなんですか?それはよかった。」
部長、たまにはやるじゃん。
今週は先輩が仕事のこと気にせずゆっくり療養できるということだ。
会社に電話しようとして手に取ったスマホをヘッドボードに置き、両手で先輩の頬を包むように触れ、顔を近づける。
キスされると思ったのか、先輩はギュッと目を閉じた。
可愛い…。
このままキスしてやろうかな…なんて邪 な気持ちが現れそうになったが、既 のところで止まった。
「まだ少し熱ありそうですね。」
「あ…、うん…。頭痛い…。」
額を合わせると、先輩はまだ熱があるようだった。
先輩が寝てる間に、少し離れたコンビニまで買いに行った解熱剤や冷えピタ、それにヨーグルトやスポーツドリンク。
新しい冷えピタを先輩の額に貼ると、気持ちいいのか目を閉じた。
「今日はゆっくりここで休む?それとも家で休む?移動のこと考えたら、ここの方がいいかな?」
このまま寝かせてあげるべきなのか、家に帰ってもいいけど、先輩の負担を考えたらホテルでもう一泊の方がいいのかも。
先輩が心休める場所を選んでほしくて尋ねた。
「……家がいい。」
「じゃあ帰りますか。」
「うん。」
先輩の希望通り、家に帰ることにした。
急いで家を出たから、それほど荷物は多くない。
先輩をおぶって、両手に荷物持てるくらいだ。
駐車場に着いて、先輩に尋ねる。
「先輩、後ろで寝る?」
「城崎の隣がいい…。」
「じゃあ助手席倒して寝る?寝づらいよ?」
「それでもいい…。」
可愛いんですけど。
甘えた最高じゃん…。
俺、運転集中できるかな…。
先輩を助手席に乗せ、しっかり毛布で包む。
エアコンの風向きも変えて、運転席に乗り込んだ。
「城崎…暑い……。」
「えっ?!ごめんなさい!!」
「う〜……」
たしかにな?!
風邪だから温めなきゃって思ったけど、今7月だし、車の中入った瞬間汗吹き出るくらい暑いし、俺バカですね…。
先輩は毛布を脱いで唸っていた。
「なんかしてほしいこととか、ほしいものとかありますか?」
「ん…、じゃあ……、信号とかで止まってる間は、俺の手握っててほしい…。」
先輩は蒸気した頬で俺を見つめ、ギュッと手を握ってそう言った。
「かわっ…、うぅ…。先輩の甘えた最高…。」
可愛すぎる……。
本音がぼろっと声に出た。
運転中、先輩は目を閉じていることが多かったし、俺は高速道路を運転していたから結局あまり手を繋ぐことはできなかったけど、それでもすごく幸せだった。
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