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第173話
外に出ると、ジリジリと日が差し、大嫌いな蝉の鳴き声が聞こえる。
これだから夏は嫌い。
お互い手汗もかいててじっとりとしている。
「暑いですね…。」
「うん…。」
「あー…、暑……。」
離したくないから、手を繋いだままにする。
先輩も何も言ってこないし。
ダラダラと歩き、駅に着いた時に先輩は足を止めた。
「どこのカフェ?」
「会社の近くみたいです。カフワっていうお店。先輩、知ってます?」
「え……。あ、あぁ…。」
カフェの場所を聞かれたから答えると、先輩は明らかに狼狽えた。
なんだ?
急に表情が固くなり、手に力がこもった。
「先輩?」
「あ…、何?」
「何かあった?顔色悪い…。」
先輩の頬を撫でると、ぴくんっと震えた後、不安そうに俺を見上げた。
優しくもう一度撫でると、先輩は言いづらそうに俯いた。
「そのカフェで…、那瑠さんと一度話したことあって…。正直苦手っていうか…。」
そういうことか…。
意図が分かってイライラして、頭を掻きむしった。
「は?あー、もう…。あいつそういうとこ小賢しいな…。先輩が萎縮するの分かってんだよ。腹立つ。場所は俺が指定しなおします。」
「でも…」
「いいんです。ごめんなさい、嫌な思いさせて。」
先輩は悪くないのに申し訳なさそうな顔をして、そんな顔しなくていいのにと、俺が申し訳なくなった。
スマホを出し、電話帳からある人物を探して電話をかける。
『なぁに〜?』
「あー、もしもし?麗子ママ?」
『どうしたのぉ?もうすぐ那瑠ちゃんと約束の時間じゃない?』
「それなんだけど…。」
麗子ママに事情を説明し、話の場としてAquaを開けてくれないかと交渉する。
Aquaでも色々あったから、本当は全然関係ない場所がいいかとも考えたけど、そのへんのカフェだと気を遣わないといけないし、だからと言って公園とかだと、この暑さだから病み上がりの先輩の体調が心配だし…。
結局考えついた場所はAquaだった。
『もぉ〜…。あの子はホント困ったちゃんよねぇ…。いいわよ、開けといてあげるからいつでもおいで。』
「ありがと。助かる。」
『那瑠ちゃんにも連絡しておくわね。』
「よろしく。」
電話を切って、ため息をついた。
少し離れて待っていてくれた先輩の元へ行くと、不安そうに俺に尋ねる。
「誰に電話…?」
「あぁ。麗子ママですよ。あいつと直接連絡取りたくないから、麗子ママ介して連絡してるんです。」
「そうなんだ…。」
ホッと安堵の息を吐く先輩を見て気づく。
やっぱり俺が那瑠と直接連絡してたら嫌なんだな。
当たり前か。
俺だって先輩が元カノと連絡取ってたら嫌だし。
そうだ。電話の内容伝えないと。
「先輩。」
「ん?」
「話すところ、Aquaでもいい?外の方がいいかとも思ったけど、暑いとしんどくなっちゃうかもだし。Aquaなら、何かあったら麗子ママ助けてくれるだろうし。」
「うん、いいよ。」
先輩もオッケーを出してくれたので、電車で移動する。
Aquaの前に着いて、中に入ろうとすると、先輩の足が止まった。
「先輩、大丈夫?」
「ちょっと腹痛い…かも…。」
「えっ?!」
慌てて先輩のお腹を摩る。
緊張とかって体に出るっていうし、もしかして了承してくれたけど、本当はAquaも無理だったか?
場所を変えたほうがいいかと聞こうとすると、先輩は俺の手をお腹から離した。
「ごめん。ありがと。もう大丈夫。」
「本当?」
「うん。入ろ。」
扉を開けて先に入って行こうとする先輩。
手を伸ばして、先輩の手を掴む。
隣を歩くと、先輩は少し表情が和らいだ。
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