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第174話

「あら!!綾ちゃん!!!」 店内に入ると、奥から麗子ママが駆け寄ってきた。 先輩の手を両手で掴み、嬉しそうな顔をする。 「お久しぶりです…。この前はどうもありがとうございました。」 「怒っちゃってごめんね?でもこの前より少し元気そうで良かったわぁ。夏くんのおかげかしらぁ?」 先輩が俺を振り向く。 そっか。俺以外にもわかるくらい元気に見えるんだ。 それくらい先輩の表情が良くなったってことだもんな。 「そうだといいけど。麗子ママ、無理言ってごめん。」 「いいわよ。ほら、好きなところ座って♡好きなの言ってくれたら作るわよ♡」 「はは。お酒以外で適当に何かお願い。」 先輩も飲ませないけど、今日は俺も飲まない。 しばらくは俺もお酒は我慢かな。 あの日も、そんなに酔っ払っていたわけじゃないけど、那瑠に隙を見せてしまうくらいにはガード緩かったわけで。 二度と先輩のこと傷つけたくない。 二人掛けのソファに腰を下ろし、手招きして先輩を呼ぶ。 麗子ママは奥から綺麗な色の飲み物を持ってきた。 黄色と水色って…。 「お酒じゃないよね?」 「いやね、ノンアルよ。美味しいんだから。」 「じゃあいただきます。」 先輩の前に置いてあるグラスを取って、一口飲む。 うん。ちゃんとノンアルだ。 「先輩も飲んでいいよ。どっちがいい?」 「え…、あ、じゃあ黄色の方…。」 「はい。」 先輩は味を確かめるように少しだけ飲んで、美味しかったのか口元が緩んだ。 嬉しそうにゴクゴク飲むから、子どもみたいで可愛くて笑ってしまった。 「やっぱり二人が並んでるの見ると幸せになるわね〜♡」 「分かる?」 「二人とも表情が全然違うもの!夏くんは幸せで堪んないって顔してるし、綾ちゃんは可愛さが倍以上になるのよね〜。」 「先輩元々可愛いから、これ以上可愛く見えてるなら困るんだけど。」 「初めて連れて来てくれたときとは別人みたいだもの!それだけ今は夏くんが好きってことよね〜♡私も愛されたいわぁ♡」 初めて先輩をここに連れてきたとき。 まだ付き合ってもいない頃だ。 先輩を口説くために連れ込んだ。 あの時から俺は先輩のことが大好きで、頑張ってアピールしまくってたつもりだけど、先輩からすれば、あの時の俺と今の俺の印象は全然違うはずだ。 付き合ってから先輩は表情がコロコロよく変わることも分かった。 話が盛り上がり始めた頃、店の扉が開いた。 やっと来たか…。 「那瑠ちゃん、いらっしゃい。」 入り口には那瑠が立っていて、那瑠を視界に入れた瞬間、先輩の体に力が入った。

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