176 / 242
第176話
「昔のナツのセフレから写真を集めて送ったのも僕。ナツを無理矢理ホテルの中に入ってってねだったのも、お兄さんに見せるため。全部ナツとお兄さんを別れさせるためにやった。」
分かっていた。
あの手紙は、俺の今の住所を知っている人物にしかできない犯行だったから。
自分の口からやったと言えるようになっただけ、反省しているということなのだろうか。
「家でシたってのは?」
先輩が気にしていた嘘。
先輩がそれを信じるということは、それ相応の理由があるんだと思う。
俺も本当のことが知りたかった。
「あの日……、ナツは覚えてないかもしれないけど、お兄さんが家から出てくる裸の僕と会った日ね。」
は……?
なんで俺の家から那瑠が出てくるって状況になるんだよ…?
困惑して話の続きを聞く。
「僕がお兄さんを装ったの。ナツは熱でバカんなってて、僕のことあんたと勘違いして抱こうとしただけ。」
「は?何のこと…」
俺が那瑠を先輩と勘違いして抱こうとした…?
そんな馬鹿なこと、あるわけない。
第一そんな記憶…。
「あれだけ熱出てたら覚えてないだろうね。インターホン押したら先輩、先輩ってさ。僕のことなんて一切見えてないの。めちゃくちゃムカついた。」
熱が出てたあの日。
あの日、確かに俺は夢を見た。
抱きしめていた先輩が、那瑠に変わる夢。
現実だったっていうのか?
俺は……、俺は那瑠を………。
「キスもしてないし、抱かれてもないから。」
「え……?」
あっさりと打ち明けられた事実に唖然とした。
きっと今の俺は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているんだろう。
那瑠のことだ。
俺の態度から、俺に記憶がないことは明白だった。
俺に抱かれたと言えば、俺と先輩の関係は壊滅的な状態になっていたかもしれない。
だから事実がどちらにせよ、"抱かれた"と、そう言うと思っていた。
「ナツも知らないなら、事実がどっちでも抱かれたって言うと思ったんでしょ?」
「…………」
「僕のこと馬鹿にしてんの?認知もされてないのに抱かれるとか普通に無理だし。別れさせたくて、あんたがインターホンに映ってたから、勝手に脱いで、事後のフリしただけ。」
那瑠は席を立って、麗子ママに「ごちそーさま。」と言って店を出て行こうとした。
「待って…!」
「何?もういいでしょ?まだなんか用?」
出て行こうとする那瑠を、先輩が呼び止めた。
震えながら、泣きそうになりながら、声を振り絞っているのが見ている俺にも伝わる。
先輩の頑張りを止めようとは思わない。
俺は先輩の言葉を待った。
ともだちにシェアしよう!