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第178話
先輩の頬にキスをする。
決意のキス。
絶対に、何があっても、俺がこの人を幸せにする。
そして、この人に幸せにしてもらうんだ。
見つめていると、先輩は不意に顔を上げる。
目が合って、ドキドキする。
唇にキスしたい…。
頬を指で撫でると、先輩が目を閉じた。
してもいいってこと…だよな?
先輩の頬を両手で包み、顔を近づける。
唇が触れそうになった瞬間、パァンッと破裂音が鳴った。
「おめでと〜う!これでもう何の邪魔もなくイチャイチャできちゃうのね〜!♡」
「……………」
「れ、麗子ママ…!」
最悪。
タイミング悪すぎるだろ。
空気読めよ。
今はどう考えても、俺と先輩のイチャイチャタイムだろうが。
白目剥いてキレそうになったけど、先輩がそんなに怒ってる様子もないから空気悪くもできない。
麗子ママは俺が怒っていないのをいいことに、勝手に盛り上がっていく。
「二人の仲直りお祝いパーティーよ〜!新しいボトルたくさんあけちゃうんだからっ♡」
「えっ?!」
「まずは1本目!今日入荷したばっかりの年代物っ♡」
驚く先輩を置いて、ポンッとボトルの栓を飛ばす。
この人、お祝い好きだからな…。
「ちょ、麗子ママ!飲み過ぎー!!」
ガブガブと酒を煽る麗子ママを、先輩が止めようとしている。
もう倒れるくらい酔うまで止まらない…ってのは、常連の透さんや拓磨さん、そして俺くらいしか知らないと思う。
「店の前に臨時休業の看板かけてきますね。」
「え?」
「この人、盛り上がるとお酒止まらないんですよ。今日は仕事できないと思います。」
先輩に断りを入れて、店の前にCLOSEのプレートを掛ける。
なんで今から甘い時間って時に、人の介抱しなきゃいけないんだよ…。
店内に戻ると、麗子ママは千鳥足でトイレに向かっていた。
そのままトイレで無理矢理吐かせ、眠ってしまった麗子ママを住居スペースに転がした。
先輩以外の人を久々に持ち上げたけど、重い。
別に先輩が特別軽いわけではないから、麗子ママのガタイの良さ故だろうけど。
バーのカウンター席に着いて、大きなため息を吐いた。
「はー…。俺たちのお祝いパーティーなのに、なんで主役が介抱しなきゃなんねーんだよ…。」
「でもさ、城崎。」
「ん?」
「俺たちが付き合ってること、喜んでくれる人がいるって嬉しいね。」
先輩の言葉に、すっかり毒気を抜かれた。
そうだよな。
俺たちのことを応援してくれてる人がいるって、すごく喜ばしいことなんだよな。
「………ふふっ。」
「へ??」
不思議そうに首を傾げる先輩の肩に頭を乗せる。
俺も先輩の考え方見習いたいな…。
仏かよってレベルで、人の悪を許しちゃう…どころか浄化されるんだよな。
先輩の周りに素敵な人が集まる理由も分かる。
俺はきっと、どんな境遇で出会っても、この人のことが好きになってたんだろうな…。
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