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第179話
勝手に納得していると、先輩は唐突に話し始めた。
「あの子すごいね…。あの若さでちゃんと考えてるんだもん…。」
ん?
那瑠の話か…?
「そうですか?つーか、性格には難ありまくりですけどね。それに、俺の先輩にこんなに心の傷負わせて、俺は一生恨みますけど。」
「治すよ。大丈夫。」
先輩は俺の手を握ってそう言った。
たぶん根拠なんてない。
でもきっと、先輩がそういうなら間違い無い。
「そうですね。先輩ならきっと治せますね。」
「おう。」
俺の過去の行いせいで、先輩をたくさん傷つけた。
先輩が負う必要のことなかった傷を、恋人である俺が与えてしまった。
でも先輩はそれすら乗り越えて、きっと治る頃には今よりもっと素敵な先輩になっているんだろう。
「城崎はさ、どう思う?」
「何がですか?」
「今回色々あったろ?全部ひっくるめて、どう思った?」
「どう思ったって…。」
あの記念日の日から約二ヶ月。
こんなに先輩と距離を感じたのは初めてだった。
こんなにも自分以外のことで焦ったのは初めてだった。
寂しくて、不安で、心配で…。
先輩と離れていた間、息をすることすら苦しかった。
「先輩と離れて寂しかった。不安だったし、なにより心配だったし、できればもう二度と経験したくないですけど…。」
「そっか。まぁそうだよな。……でも、経験してよかったのかも。」
「えぇ…?」
二度と経験したくないと言った矢先に、経験して良かったって…。
ジト目で睨むと、先輩は苦笑した。
「俺も二度とこんなのごめんだけど、でも俺、嬉しいこともあったんだ。城崎と外で手を繋ぐことに抵抗なくなったのもそうだけど、親にもちゃんと話せて、それに城崎に愛されるって感じて。」
外で手を繋いでくれるようになったことも、ご両親に話してくれたことも、俺だってもちろん嬉しい。
今回のことがなかったら、そうならなかったと思うと、よかったと捉える意味も分かるかも…。
でも最後のは納得いかない。
「付き合う前から、ずっと愛しまくってるんですけど。」
「あはは。わかってるよ。でも、今まで以上に実感したんだ。本気で愛してくれてるって。だから俺、もう無敵だよ。」
ムッとしてそう言うと、先輩はくすくす笑って俺の頭を撫でる。
もう…。子供扱いして……。
「俺だって、先輩と一緒にいたら無敵だし。だからもう俺たちこれから向かうところ敵ナシってことですよ?」
「最強じゃん。」
「最強ですよ、二人でいれば。だから絶対にもう離れないでくださいね。」
「うん。」
抱きしめると、先輩も俺の背中に手を回した。
幸せだな…。
「先輩、ここ泊めさせてもらう?」
「え?」
「空き部屋あるはずだから。それとも家帰る?」
このまま先輩とこうしていたい。
家に帰る時間すら煩わしく思えた。
「明日は?」
「仕事…ですね。」
「じゃあ帰る。」
俺が仕事じゃなかったら泊まってたのかな?
もしかして、先輩も俺と同じように思ってくれてる?
「電車でもこうしてる?」
「バカ。数分くらい耐えれるし…。」
コツンと小突かれて、体が離れる。
ちぇ。寂しい…。
そう思ったけど、先輩は俺の手をぎゅっと握った。
「帰るぞ。」
繁華街や電車内、帰り道たくさん人がいたけど、どんなに見られてても先輩は手を繋いでくれていた。
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