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第180話

「ただいま。」 「おかえりなさい、先輩。」 家に着いてすぐ、先輩を力いっぱい抱きしめる。 先輩も俺の背中に回した手の力を緩めることはなく、それがすごく嬉しかった。 先輩が自分の唇に触れる。 キスしたい。 先輩もそう思ってくれてるってことだよな? でも俺はただのキスじゃ済まない。 唇を割って、先輩の味を思い出すように掻き回したい。 仲直りして速攻それは引かれるよな…。 この流れはまずい。 ちゃんと手順を踏んで、ゆっくり仲を戻していくんだ…。 「先輩、お風呂入ろっか。」 「え。お、おう…。」 風呂ならいいよな…? いや、よくないか?? でも最近一緒に入ってるし…、いい…よな…? 先輩を置いて、先に浴室へ入る。 頭と身体をささっと洗い、湯船に入浴剤を入れて浸かる。 今先輩の裸見たら、我慢できる気がしない。 頭の中で円周率を唱えていたら、先輩が入ってきた。 み、見ちゃダメだ。ダメダメダメ。 「今日は濁り湯の入浴剤入れてみました。どうですか?」 「………」 「せ、先輩っ?!」 先輩は体を流してすぐ、湯船に入って俺に跨った。 待て待て待て待て。 精神統一終わってないんですけど…! 「なんだよ。」 「あっ、洗わないんですか?」 「後でいい。」 お、怒ってる…? あんなに毎日一緒にお風呂入っても、慣れずに毎度のごとく顔を真っ赤にして抵抗する先輩が、自分から俺に跨ってくることがそもそも珍しい。 先輩はムッとした顔で、俺の首筋に顔を寄せた。 「ふ…っ」 突然感じた快感に身体が跳ねる。 先輩の舌が俺の首筋を這う。 嬉しすぎる行為なのに、今の俺にとってはあまりにも残酷だ。 「…ちょっ!ぁっ、先輩っ!!」 「ん…、んっ」 「こら!」 両肩を掴んで、無理矢理引き剥がす。 興奮してるのがバレるのも時間の問題だ。 普通に勃ってるし、息も乱れてる。 この人、俺をどうしたいんだよ。 「ダメ!」 「なんで。」 「な、なんでって…!」 がっついて、引かれたくないからだよ!! こっちの気も知らないで…。 ふーっ、ふーっと荒くなる息を、深呼吸しながら、もう一度脳内で円周率を唱えて整える。 「ん…」 「っ!!」 先輩が体を動かし、ペニスが先輩のお尻に触れた。 まずい。 「俺、上がります!!」 「え?」 「先輩はごゆっくり!!」 バレないように前をタオルで隠し、浴室を後にした。 あっぶねぇ……。 ズキズキ疼く股間を押さえて、ゆっくり深呼吸する。 間違えるな、俺。 ゆっくりだ…、ゆっくり。 何がトリガーになって、先輩の身体が拒否反応を起こすかわからない。 いや、問題は解決したから、もう大丈夫なのかもしれないけど…。 勇気のない俺を許してください。 心の中で先輩に謝りながら、リビングで先輩を待った。

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