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第187話
目を覚ますと、目の前に気持ちよさそうに眠る先輩の寝顔。
あんなに幸せだったのが、もしかしたら夢じゃないかと思うと怖くなるけど、抱きしめて感じる温かさも全部本物だ。
「先輩、おはよう。」
まだぐっすり眠っている先輩に挨拶して、唇にキスをする。
乾燥している唇が、俺のキスでしっとりと湿る。
薬局行ってリップクリーム買わないとな…。
昨日だけで荒れかけている先輩の唇を見てそう思う。
多分今日も明日も明後日も、先輩が嫌がるくらいキスしてしまうと思うから。
俺はリップクリーム常備するようになったけど、先輩ってそういうのは本当に無頓着だから、俺がリップケアしてあげないと。
先輩の唇をふにふに触っていると、6時を過ぎていた。
昼ごはんを先に作って冷蔵庫に入れ、朝ごはんにはホットケーキを作る。
匂いで起きてくるかもと思ったけど、よほど疲れていたのか先輩は起きてこなかった。
スーツに着替え、寝室に戻る。
さっきと変わらぬ体勢で、まだ気持ちよさそうに眠っていた。
「いい夢見てますか?」
頭を撫でながら、眠っている先輩に尋ねると、先輩は薄ら目を開いて、俺を見てガバッと上体を上げた。
「はっ…!仕事…!!」
あぁ、俺がスーツ着てるからか。
でも先輩って、週明けまで休んでいいって言われてるって、自分で言ってなかったっけ?
それ聞いて安心したんだけどな。
「先輩はお休みしていいんでしょ?」
「でも、迷惑かけるし…。」
「大丈夫。みんな順調ですよ。」
「でも……」
一瞬、またこの人は周りのことばかり気にして…って思ったけど、俺の服の裾を掴んで何か言いたそうにソワソワしてる。
もしかして、俺と一緒にいたいとか…?
でも病み上がりの先輩には、できるだけ休んでいてほしいし…。
「定時で終わらせて、ダッシュで帰ってきます。」
「うん……」
「明日から週末だし、先輩はしっかり体休めて?先輩の分までしっかり頑張ってきますから。」
「ありがとう…。」
先輩はニコニコ嬉しそうに笑った。
俺のご都合解釈、あながち間違ってなかったのかも?
「へへ。お礼は体で払って欲しいな〜?」
「か、体っ?!」
先輩はぼぼぼっと顔を赤く染め、顔を逸らした。
ウブかよ。
「キスでいいですよ?もしかして、それ以上のことしてくれるの?」
「っ!!」
先輩の胸元近くに触れながら耳元で囁くと、先輩は勢いよくベッドの隅へ逃げた。
多分これは嫌なんじゃなくて、恥ずかしがってるだけだ。
あー、本当可愛い…。
「冗談です。じゃあ行ってきますね。朝の分の薬は、朝食と一緒に机に置いてますから。」
もう家を出ないと会社に遅刻する。
謹慎明け早々遅刻はさすがに怒られるからな…。
ベッドから立ち上がり、先輩の方へ振り返ると、勢いよく腕が引かれて体勢を崩す。
チュ…と頬に柔らかい感触。
「ありがと。いってらっしゃい…。」
なっ…?!!
デレている先輩にニヤニヤが止まらない。
なんで仕事なんだよ!?
行きたくねぇ〜。けど、行かなきゃ…。
先輩の唇に触れるだけのキスをする。
「いってきます♡」
これ以上先輩見てたら、どんどん後ろ髪を引かれそうだから、振り返らずに家を出た。
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