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第189話
「はぁ〜………。」
デスクに積まれた書類をなんとか半分以上片付けた。
時刻は12時を少し過ぎたあたり。
集中しすぎて頭痛ぇ…。
「城崎、昼飯行くか?」
「あぁ…。いや、いいです。軽く休憩して再開します。」
「あんまり根つめんなよ。」
柳津さんはちゅんちゅんを連れて食堂へ行ってしまった。
疲れたし、午後も頑張るために先輩の声が聞きたい…。
電話をかけると、何コールかのあとに電話が繋がった。
『も…、もしもし…っ?』
焦った声が聞こえてきて、俺の電話に出るために何かを途中で切り上げてくれたのかと、少し嬉しくなる。
「もしもし。先輩?」
『…………』
「先輩…?」
返事がなくて不安になって耳を澄ませると、微かに不規則な息遣いが聞こえた。
まさか…!
「先輩、大丈夫?!もしかして過呼吸?!」
『はっ…ぁ、違…』
まだ息が整っていないのか、途切れ途切れの声に不安が煽られる。
過呼吸じゃないなら何だっていうんだ。
薬、俺が管理してるから手元にはないはずだし、だからと言って場所を教えてまたあんなことが起こったらと思うと…。
「本当に大丈夫?どうかしたの?」
『……し…ごと…、順調…?』
「順調ですけど…。ねぇ、本当に大丈夫なんですか?」
『だいじょ…ぶ。心配すんな…。』
決めた。
この電話切ったらすぐに仕事取り掛かって、終わったら早退させてもらおう。
謹慎明けで調子に乗ってると思われるかもしれないけど、周りの評価より何より先輩の無事が最優先だ。
「お昼、冷蔵庫に入れてますから。ちゃんと食べてくださいね?」
『ん…。ありがと。』
「俺、仕事戻ります。」
『え、もう…?』
「早く帰りたいから。待っててね。」
マイク部分にチュッとキスをしてから通話を切った。
よし…。仕事戻ろ。
缶コーヒーを買ってデスクに戻り、残りの書類を捌いていく。
疲労のせいか若干効率が悪い気がする。
一時間ほど経ってから、同僚たちがぞろぞろと部署に戻ってくる。
「え、城崎。だいぶ進んだな?本当に休憩とったか?」
「少し先輩と電話したんですけど、ちょっと様子がおかしくて…。」
「綾人が?」
「はい。だから早退させてほしくて、せめてこれだけは終わらせて帰ろうと思って。」
残り三分の一と少し…。
少なくとも二時間はかかりそうだ。
「そっか。俺ももらうよ。ほら、ちゅんちゅんも。」
「え〜っ?!俺もっすか?!」
「大好きな先輩のためだろ?」
「うぅ〜。でも俺、仕事そんなに早くないっすからね?」
「そんなのみんな知ってるよ。」
柳津さんが俺のデスクから半分ほど書類を持っていった。
これなら一時間あれば終わるかも…!
「ありがとうございます!!」
「お〜。今度なんか奢れよ〜。」
「もちろんです!」
ゴールが見えたおかげか仕事効率はぐんと上がり、ぴったり一時間で仕事を終えて、部長に懇願してなんとか早退させてもらった。
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