196 / 242
第196話
遅刻した俺たちを先生は快く迎え入れてくれて、無事診察を終えた。
次の受診は来週。
薬が増えたことを心配していた先輩は、治療方針を聞いて安心した様子だった。
先生と少し話をしてからクリニックを出る。
暑い中歩いているから、先輩の額や髪からツーっと汗が垂れる。
エロい……。
「暑い……。」
「ですね…。」
これ以上は先輩が熱中症で倒れると心配なので、プラネタリウムが併設されたショッピングモールで昼食を取ることにした。
ランチを終えて、会場に移動する。
上映時間が近いからか、入場口は少し人が多かった。
「楽しみですね。」
「うんっ!」
楽しそうな先輩を見ているだけで幸せ。
入場券を表示したスマホをかざして中に入ると、プラネタリウム特有の薄暗くて神秘的な空間が広がっていた。
予約したのはカップルに人気のペアシート。
席に近づくにつれて、先輩の足取りがやや重くなった。
「えっ…。城崎、まさか俺たちの席…」
「もちろん。」
「マジか…。」
あれ…?ダメだったか?
喜ぶと思ったんだけどな。
まぁでもたしかに、なんかいつも以上に周囲の視線を感じる。
リラックスしにきたのに、こんなに見られてちゃ先輩も落ち着かないよな…。
「え。すげぇ。」
予定していた反応と違い、落ち込みそうになっていると、先輩の嬉しそうな声が聞こえた。
先輩は一足先にベッド型のペアシートに腰掛け、キラキラと目を輝かせて感動していた。
俺も先輩の横に腰掛けると、吸い込まれるように体が沈んだ。
「すげーふわふわ。先輩、寝ちゃうんじゃないですか?」
「寝ないから!」
いや、絶対寝るでしょ(笑)
自信たっぷりに寝ないと言い張る先輩が可愛くて、堪えきれずに笑ってしまう。
二人で寝転がると、タイミング良く会場のライトが消えた。
数センチだけ空いた距離がもどかしくて身体を寄せると、先輩と同じように思っていたのか身体を寄せ、ぴったりとくっついた。
「手、繋いでいい?」
周りに聞こえないように耳元で尋ねると、先輩は返事の代わりに俺の手を握ってくれた。
あぁ、好きだな…。
指を絡ませると、ぴくんっと先輩の体が震えた。
一緒にいるとこんなにも楽しくて、毎日のように俺をドキドキさせてくれる。
先輩のこと好きだなぁって思うたびに幸せで、先輩が俺のことを好きだと示してくれるたびに心が満たされる。
もうこの手は決して離さない。
死ぬまで先輩の隣は俺のものだ。
隣を見ると、先輩は睡魔と戦っていた。
瞼が徐々に降りていき、時々ハッと目を覚ます。
ついには完全に目を閉じた。
「先輩、寝た?」
「………て…なぃ…」
ふっ…。寝てるじゃん(笑)
絶対寝ると思ったんだよな。
リラックスしてくれたならいい。
それがここを選んだ目的だったから。
「寝ていいよ?終わったら起こしてあげる。」
「……寝…なぃ…し……」
「はいはい。」
先輩の言葉を軽く受け流し、完全に先輩が眠ったのを見届けてから、俺はプラネタリウムと先輩の寝顔を楽しんだ。
ともだちにシェアしよう!