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第213話
とうとう休みも明けて火曜日になってしまった。
外は大嫌いな蝉が五月蝿く泣き喚いていて、いつもならイライラが止まらないだろうけど、今は先輩が隣にいるからむしろ気分がいい。
駅まで歩く間、自然と手を繋いでくれるのが嬉しくて仕方ない。
「昨日の先輩はすごかったな〜。」
「な、何言ってんだよ?!」
「え〜?もっともっとって強請って、挙げ句の果てに俺を薬局に走らせたのは誰ですか〜?」
「っ!!」
先輩はカァっと顔を赤くする。
先輩の乳首にはニップレス。
シリコンの厚み分、ほんの少しだけぷっくりとしているのはきっと俺しか気づかないと思う。
「ニップレスって凄いですね。こんなに見えなくなるなんて。」
「誰のせいでこんなことに…」
「俺を煽った先輩では?」
「煽ってない!!」
煽ってたじゃん。
まぁあんまり言ったら怒っちゃうから黙っておこうっと。
「あ〜……。仕事嫌だ。連休初日からやり直したい…。」
「俺は休みすぎたから仕事したい。」
「はぁ?!先輩は俺とのイチャイチャより仕事がいいって言うんですか?!」
「圧がすごいな…。違ぇよ。たまには息抜きも必要だろ?」
息抜き……。
「ぷっ…。仕事が息抜きって、なんか逆な気がする。」
可笑しくて、つい吹き出してしまった。
休日だと俺が休みなく先輩のこと気持ちよくしちゃうからな〜。
これって遠回しに、もう少し加減してってお願いだったりする?
でも先輩が煽ってくるんだもんな〜。
駅に着いて電車に乗り込む。
車内は汗と夏の湿気のせいで、気持ち悪いほどの湿った空気。
夏の電車、嫌いすぎる。
「先輩、こっち。」
「…っ!」
先輩は普通に吊り革を掴もうとするから、俺は先輩の背中がドア側になるように引き寄せる。
その辺のおっさんの汗、先輩につけたくないし。
それに先輩は病み上がりだし、あと異常に可愛いから痴漢に遭わないかも心配だし。
先輩はそんなこと考えもしてなさそうだけど。
「先輩、大丈夫?つらくない?」
「や、全然。城崎こそ大丈夫か?」
「俺は先輩が目の前にいるから、何でも平気です。」
先輩が腕の中にいるだけで幸せ。
あー、夏もいいかも。
先輩の体臭がいつもより濃い気がするし。
「おい。どさくさに紛れて嗅ぐな!」
「え〜?」
「ちょ…っ、ん…!」
首筋に鼻を近づけていると、会社の最寄駅に着いてしまった。
ちぇっ。
社員がいたらまずいから、手も繋げないし。
「この三日間、先輩にずっと触れてたから、なんか変な感じ。」
「変?」
「触れてないと不安になる。でも、我慢しなきゃですね…。」
口を尖らせながらそう言うと、先輩にぐいっと腕を引かれて路地裏に連れ込まれた。
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