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第216話

本当ギリギリに営業部に滑り込んだ。 先輩が挨拶をすると、みんな顔を上げて明るい表情になり、先輩はすぐに囲まれてしまった。 俺の彼氏、人気すぎるだろ…。 ベテランの人たちももちろんだが、後輩からもキラキラとした目で見つめられている。 先輩の人の良さが、周りの人からの信頼に繋がっているのだろう。 改めてすごい人だと思う。 「おい、城崎。ちょっと。」 「はい…。」 先輩に見惚れていると、部長に呼び出される。 きっと例の件だ。 「おはようございます…。」 「おはよう。反省はできたんだろうな?」 「……………。」 反省も何も。 悪いのは向こうだし。 俺の恋人傷つけて、可愛いだなんだとふざけやがって。 思い出しただけでも、もう一度ぶん殴りたい気分だ。 「今日は蛇目さん休みですか。」 「時間給使って昼までには来るよ。ちゃんと謝りなさい。」 来んのかよ。 来なくていいのに。 先輩と会わせたくないな…。 「返事は。」 「………はい。」 心のこもってない謝罪なんて意味ないと思うんだけどな。 俺が反省していないことなんて、向こうもお見通しだと思うんだけど。 「まぁ、とにかく戻りなさい。」 「はい。」 今すぐ帰りたい。 先輩を蛇目と会わせたくないのもそうだけど、会社にいたらいずれ俺が蛇目を殴ったことは先輩にバレるだろう。 先輩は怒るだろうか? それとも、自分のせいだと悲しむ? どっちも嫌だな…。 先輩のデスクの方では、先輩と柳津さんとちゅんちゅんがキャッキャっと楽しそうに話し込んでいる。 俺も混ざってやろうと足を早めると、能天気な顔をしたちゅんちゅん以外の表情が固まった。 柳津さんに口を塞がれたちゅんちゅんは、もごもご何かを訴えようとしている。 「……何ですか?この空気…。」 「城崎……」 「え?何?」 先輩が祈るような目を俺に向けてくるから、状況が掴めず困惑する。 柳津さんに視線をやると、柳津さんは右手を顔の前にかざして"ごめん"と謝っているようだった。 「城崎、悪い。ちゅんちゅんが…。」 「ほへんははい。」 「城崎、謹慎って何……?」 「えっ……。」 すーーずーーめーーだーーー!!!! あいつ口軽すぎるだろ?! 何?なんなの?! おまえ、さっき合流したところだよな?! 流れるように秘密バラすのか、あの口は?! 「城崎、ちゃんと説明して。」 「はい…。」 先輩が少し怒っているから、俺は渋々事の全てを白状することにした。

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