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第218話
「まぁとにかく、先輩のために怒るのは、俺にとって当たり前のことなの。むしろ、怒らないほうがあり得ないから。」
「……ありがとう。」
「どういたしまして!」
"ごめんね"ではなく、"ありがとう"と言ってくれたのが嬉しかった。
先輩を抱きしめる手に力を込めると、先輩は安心したように力を抜いた。
と思ったのも束の間。
ぐいっと肩を押されて距離を取られる。
「俺のためとはいえ、人を殴っちゃダメ。」
正論。
だけど、もし同じようなことがあったら、俺はまた殴ってしまうと思う。
「暴力を振るう人は嫌い。」
「ちょっ?!殴らない!!先輩には絶対手は出さないですよ?!DVとか考えたこともないし!!」
「人に暴力振るう人も無理。」
「ごめんなさい。もう絶対にしません。」
訂正。
先輩に嫌われてしまうくらいなら、俺はもう人に手を出しません。
神様、許してください…。
「分かったなら許してあげる。」
先輩はキョロキョロ辺りを見渡し、俺を抱き寄せてチュッと唇に触れるだけのキスをした。
自分からキスしておいて、目を泳がせて、恥ずかしそうに真っ赤に頬を染める。
先輩が可愛すぎて俺が死ぬ。
「許してくれるの?」
「……うん。」
「さっきのは何のキス?」
「何のって…」
キスに一つずつ理由をつけないといけないのか?
そう聞きたげな先輩の困った顔。
困らせたいだけなんだよなー、とは言えない。
言ったら怒られそうだから。
「よくできました、のキス?」
「……じゃあそれで。」
「じゃあ今からするのは仲直りのキスね。」
「んっ…」
先輩を抱きしめて、噛み付くようにキスをする。
先輩は職場だからダメだと言いたげに抵抗をするが、弱すぎて抵抗にすらなっていない。
むしろ俺を興奮させる燃料になってる気がする。
椅子に座らせ、後ろに逃げられないようにして、深く唇を味わった。
唇を離すと、とろん…と潤んだ目が俺を見つめていた。
「ふはっ…!しばらく会議室から出れないですね。」
「………バカ。」
「可愛い。」
職場にいるのに、先輩とこんなに触れ合えるなんて思ってもみなくて、幸福感に満たされたまま会議室を後にした。
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