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第220話
「おやまあ、城崎くん。そんなに睨まなくても…。別に取って食おうとしてるわけじゃないんですから。」
「うっせぇ。」
「この傷、まだ痛むんですよ?城崎くんが休んでいた三日ほど、外回りも行けないくらい腫れてたんですから。」
自分のせいだろ。
頬に触れながら、ちくちく嫌味を言われて腹が立つ。
「主任、この間はすみませんでした。反省しています。」
「先輩、行こう。こいつの話なんて耳貸さなくていい。」
先輩の手を引いて、蛇目とは逆側に歩こうとすると、逆にグイッと後ろに手を引かれた。
「待って、城崎…。」
振り返ると、先輩は真剣な目をしていた。
きっと話したいんだ。
本当は話してほしくないけど、先輩が決めたことなら俺は付き合う。
手を離すと、先輩は蛇目に対峙した。
「蛇目…、本当に俺たち何もなかったんだよな…?」
「何かあってほしかったですか?」
「何もあってほしくないよ。」
先輩の声は震えていた。
蛇目はそんな先輩を見てくつくつ笑っている。
「残念ながら、本当に何もなかったんですよ。」
「でも…、その……」
「もしかして精液のこと気にされてます?」
「…っ!」
は……?
精液って何。
かけられたのか?こいつのを?
先輩の反応から見て、起きた時に精液が付いていたんだろう。
どこに?
腹?
まさか尻とか言わねぇだろうな?
沸々と込み上げてくる怒りを、今すぐに蛇目にぶつけてしまいそうだった。
「知りませんか?擬似精子。AVとかで使われるので、ネットで調べたら作り方とかも出てくるんですよ。」
「ぎ、擬似…?」
「まぁつまり、本物ではないですね。」
二人の話を聞く限り、蛇目は先輩を勘違いさせるために擬似精子を作って先輩が気づく場所に付けた。
蛇目の狙い通り、勘違いした先輩はそれが原因で蛇目に抱かれたっていう疑念がずっと晴れなかったのだろう。
安心して力が抜けたのか、よろけた先輩を支える。
「先輩、大丈夫…?」
「あぁ…、ありがと。」
真実を知ってもなお、先輩の手は震えていた。
そりゃあ怖いよな。
俺だって怖い。
知らぬ間に先輩以外の誰かとベッドにいたなんて、自分の舌切るかもしれない。
先輩の手をぎゅっと握ると、先輩の体の緊張は少しだけ取れたように見えた。
「まだ私のこと怖いですか?」
「…………。」
「まぁ、そうですよね。失った信用をすぐに取り戻せないことくらい分かってます。私なりに誠意を込めて、反省を示していくつもりです。」
「何であんなことしたんだよ…?」
「言いませんでしたっけ?イタズラが好きって。」
蛇目はあっけらかんとそう答えた。
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