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第223話
あれから蛇目から先輩への積極的な接触はなく、俺は少しピリピリしながらも波風立てず仕事に臨んだ。
先輩はどこかそわそわした様子で、特に定時終わり、俺を置いて帰ろうとすることが増えた。
もちろん一人で帰らせるはずもなく、捕まえて一緒に帰っている。
明日は金曜日。
たまにはゆっくり外食してもいいかな〜と思ったり。
先輩に思う存分ビール飲んでもらってもいいかも?
でも薬も飲んでるし、お酒は控えた方がいいのかな。
なんて、色々考えながら帰宅する。
「先輩、おかえりなさい♡」
「あぁ…」
玄関に入り、ドアを閉めてすぐに先輩にキスをする。
なーんか最近、先輩の様子が変だ。
先に帰ろうとするのもそうだけど、考え事してる感じ。
「先輩、最近上の空ですよ?どうかしましたか?」
「いや…、うーん……。」
「悩み事?」
「悩んではいる…。けど、苦しんでるわけではない。」
ネガティブじゃない悩み事…。
どんなこと??
ツラいわけじゃないならいいのか?
話してこないってことは、俺が相談に乗れることではないってことだよな?
「飯、俺が作る。」
「え?いいですよ。先輩疲れてるでしょ?」
先輩は俺の腕の中からすり抜け、先にリビングに行こうとする。
やっぱりなんか変だ。
料理なんていつも俺がしてるのに。
久々の仕事が続いて疲れてるはずなのに、先輩にこれ以上負担をかけるのは…。
そう思って返事したけど、先輩は俺の両肩を掴んで椅子に座らせた。
「そんなのおまえもだろ。」
「俺は別に…」
「いいから座っとけ。」
嬉しいような、寂しいような。
一人でキッチンに立つ先輩を見て、料理するなら一緒にしたいなーと思って後ろに立つ。
あ、やっぱり嬉しい。
俺のために料理してくれてるの、なんだか新婚さんみたいだ。
先輩の腰に手を回すと、先輩は野菜を切る手を止めた。
「あぶねーだろ。」
「だって嬉しいんだもん。先輩が俺のためにご飯作ってくれてるの。」
「今はダメ。」
むぅ…。厳しい…。
でも離れたくないしなぁ…。
年下の特権でちょっと甘えてみる。
「え〜。新婚さんみたいでドキドキしてるの俺だけ?」
「ドキドキするからダメだっつってんの。手ぇ切ったら城崎のせいだからな。」
「それはダメ!!離れるからケガしないで!」
先輩の言葉を聞いて容易に想像ができてしまった。
先輩が指切る想像。
ちょっとぬけてる先輩は可愛いけど、痛い思いはしてほしくなくて、すぐに距離をとった。
でも俺のために料理してくれる先輩から目は離したくない。
「そんなに見られたら恥ずかしい。」
「触っちゃダメなんだから、見るくらい良いじゃないですか。」
「もう少しバレないようにとかできねーの?」
時々俺の方を見て、恥ずかしそうに顔を赤くして目を逸らす。
う〜…。かわいい……。
「できません。……あ、動画撮って良いですか?」
「人の話聞いてた?」
聞いてるけど、いつでも見れるように残しておきたい。
スマホのカメラを起動し、ボタンを押して動画を撮り始めた。
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