229 / 242

第229話

昼休みになり、先輩と柳津さんと食堂に行く。 来てすぐに、来なければよかったと後悔した。 「城崎くん、お誕生日おめでとう。よかったらこれ…。」 「すみません。恋人がいるので受け取れません。」 イベントがある日は部署から出るな。 自分自身に言い聞かせていたのに、浮かれてたせいで忘れてた。 先輩は俺が女性に声をかけられた瞬間に、何事もなかったかのようにいなくなった。 最悪……。 だけど、柳津さん連れてきててよかった。 先輩が一人になったら嫌だし…。 断ったはずなのに、なかなか立ち去らない女。 これ以上何の用があるんだ。 「あ…、えっと…。去年と別の方ですか?」 「去年と同じ人。俺がそんな軽い男に見えますか?」 「ち、違うの!ごめんなさい…。私、去年からずっと城崎くんのこと好きで……」 告白…。 先輩、聞いてないよな…? もうやだ…。 先輩にだけモテたいのに。 顔のせいなら整形したいくらいだけど、先輩もこの顔好きなんだろうしなぁ…。 「俺、今の相手のことしか愛せないんです。あなたもそういう人がきっと現れると思うから。俺なんかさっさと諦めて、新しい恋をしてください。」 「うぅ〜……」 自分でもクサイなぁと思う台詞を吐いて、女性を追い返す。 だって事実なんだもん。 今後何が起こっても、先輩以外を好きにはならないと思う。 それくらい先輩のことが好き。 先輩のもとへ戻ると、先輩は俺から距離をとる。 そしてその隙を狙って、また誰かに声をかけられる。 はぁ〜。やだ……。 何人目かの告白を断って、また先輩のもとへ戻った。 「先輩、何で遠くに行くんですか?」 「見たくないから。」 「だから全員断ってるじゃないですか。先輩が嫉妬しないように。」 「わかってるけど、嫉妬しちゃうんだよ。だから俺が見えないとこでやって。」 ヤキモチ妬いてくれるのはすっごくすっごくすーーっごくかわいい。 でも俺のそばから離れないでほしい。 席から立ち上がり、またどこかへ行こうとする先輩の腕を掴む。 何か言いたげに俺を見たから、俺から先に切り出した。 「誕生日だから、ずっと先輩のそばにいたい。」 「うっ…。それはずるいだろ…。」 先輩はため息をついて隣に腰掛ける。 やったー♡ 買ってきたラーメンを啜ってると、先輩がムッとした顔で俺を見つめていた。 「というか、もう来ないでしょ。あの噂広がって、陰でヒソヒソ言われてるみたいだし。」 「城崎、自分がどれくらい魅力的か分かってないだろ。」 まだ告白されると思ってるのか? 俺は同僚を殴った危ない奴として噂が広がってるのに? というか、魅力なら先輩の方があるし。 「それはこっちのセリフですよ。先輩こそ、ご自身の魅力を過小評価しすぎです。」 「なあ〜。その惚気合いはいつまで続くんだよ?」 柳津さんが呆れたように尋ねた。 止められなければいつまでも続けられるけど、まぁ止めてやるか。 「俺には先輩だけだからね?」 「わかってる。」 「早く帰って二人きりになりたいです。」 「うん…。」 不安そうな顔をする先輩の手を、みんなに見えないようにテーブルの下で握る。 すると、先輩は耳元に顔を近づけてきた。 「夜、楽しみにしてる。」 ?!! こんなところで誘惑されると思っていなくて、期待と興奮で身体がブルッと震えた。

ともだちにシェアしよう!