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第229話
昼休みになり、先輩と柳津さんと食堂に行く。
来てすぐに、来なければよかったと後悔した。
「城崎くん、お誕生日おめでとう。よかったらこれ…。」
「すみません。恋人がいるので受け取れません。」
イベントがある日は部署から出るな。
自分自身に言い聞かせていたのに、浮かれてたせいで忘れてた。
先輩は俺が女性に声をかけられた瞬間に、何事もなかったかのようにいなくなった。
最悪……。
だけど、柳津さん連れてきててよかった。
先輩が一人になったら嫌だし…。
断ったはずなのに、なかなか立ち去らない女。
これ以上何の用があるんだ。
「あ…、えっと…。去年と別の方ですか?」
「去年と同じ人。俺がそんな軽い男に見えますか?」
「ち、違うの!ごめんなさい…。私、去年からずっと城崎くんのこと好きで……」
告白…。
先輩、聞いてないよな…?
もうやだ…。
先輩にだけモテたいのに。
顔のせいなら整形したいくらいだけど、先輩もこの顔好きなんだろうしなぁ…。
「俺、今の相手のことしか愛せないんです。あなたもそういう人がきっと現れると思うから。俺なんかさっさと諦めて、新しい恋をしてください。」
「うぅ〜……」
自分でもクサイなぁと思う台詞を吐いて、女性を追い返す。
だって事実なんだもん。
今後何が起こっても、先輩以外を好きにはならないと思う。
それくらい先輩のことが好き。
先輩のもとへ戻ると、先輩は俺から距離をとる。
そしてその隙を狙って、また誰かに声をかけられる。
はぁ〜。やだ……。
何人目かの告白を断って、また先輩のもとへ戻った。
「先輩、何で遠くに行くんですか?」
「見たくないから。」
「だから全員断ってるじゃないですか。先輩が嫉妬しないように。」
「わかってるけど、嫉妬しちゃうんだよ。だから俺が見えないとこでやって。」
ヤキモチ妬いてくれるのはすっごくすっごくすーーっごくかわいい。
でも俺のそばから離れないでほしい。
席から立ち上がり、またどこかへ行こうとする先輩の腕を掴む。
何か言いたげに俺を見たから、俺から先に切り出した。
「誕生日だから、ずっと先輩のそばにいたい。」
「うっ…。それはずるいだろ…。」
先輩はため息をついて隣に腰掛ける。
やったー♡
買ってきたラーメンを啜ってると、先輩がムッとした顔で俺を見つめていた。
「というか、もう来ないでしょ。あの噂広がって、陰でヒソヒソ言われてるみたいだし。」
「城崎、自分がどれくらい魅力的か分かってないだろ。」
まだ告白されると思ってるのか?
俺は同僚を殴った危ない奴として噂が広がってるのに?
というか、魅力なら先輩の方があるし。
「それはこっちのセリフですよ。先輩こそ、ご自身の魅力を過小評価しすぎです。」
「なあ〜。その惚気合いはいつまで続くんだよ?」
柳津さんが呆れたように尋ねた。
止められなければいつまでも続けられるけど、まぁ止めてやるか。
「俺には先輩だけだからね?」
「わかってる。」
「早く帰って二人きりになりたいです。」
「うん…。」
不安そうな顔をする先輩の手を、みんなに見えないようにテーブルの下で握る。
すると、先輩は耳元に顔を近づけてきた。
「夜、楽しみにしてる。」
?!!
こんなところで誘惑されると思っていなくて、期待と興奮で身体がブルッと震えた。
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