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第241話
先輩にキスされて、抱きしめられて、しばらくしてやっと涙が止まった。
あー…、恥ず……。
顔を見られないように先輩を抱きしめる。
「みっともないところ見せてすみませんでした…。」
「どこがみっともないんだよ?」
「穴があったら入りたいです…。」
先輩はクスクス笑ってる。
馬鹿にしてるんじゃなくて、可愛がってる感じだけど…。
先輩の前では、いつも格好良くありたかったのになぁ。
「なぁ、城崎。」
「えっ…。」
「ん?」
「もう名前で呼んでくれないんですか…?」
いつもの呼び方に戻ってる。
さっき夏月って呼んでくれたのに…。
先輩は俺を見て、吹き出すように笑った。
「今更すぎて恥ずかしいんだよ。」
「エッチするときは呼んでくれますか?」
せめて愛し合う時くらい!
なんて、天邪鬼な先輩には難しいおねだりをしてみる。
「あ〜……、考えとく。」
いいんだ?!
保留だけど検討はしてくれるんだと嬉しくなる。
でも待てよ…?
「そっか〜。でも、そんなことしたらパブロフの犬みたいになっちゃいますけど。」
「え。」
「今後綾人さんが俺のこと名前で呼んでくれるようになっても、俺の頭が勝手にエッチなこと考えて興奮しちゃうかもよってこと。」
ふと疑問に思って何も考えずに口にしたけど、もしかしてこれ先輩には効果覿面 じゃない?
普段から呼んでくれるようになるかも!
期待して先輩を見つめてると、俺の視線に気づき、目を逸らされた。
「…………考えとく。」
「結局検討か〜。」
「だって名前呼ぶだけで恥ずかしいんだよ。」
「試しに呼んでみてよ?」
単に呼ばせたいだけだけど。
じっと見つめて待っていると、先輩は顔を赤くして、聞き取れるか微妙なラインの小さな声で呟いた。
「な、夏月……」
「あはは!本当だ、顔真っ赤!」
「おい!馬鹿にしてんのか?!」
「してませんよ!可愛いって褒めてんの!」
名前呼ぶだけでこんなに赤くなるなんて、先輩が俺の名前を普段呼びしてくれるまでは時間かかりそうだな〜。
触れるだけのキスをたくさん降らせながら、ふと思い出す。
「それより綾人さんは何言おうとしてたんですか?」
「え?……あぁ。親に紹介したいんだけど、お盆って予定空いてる?」
オヤニショウカイ……。
親に紹介っ?!!
「へっ?!今なんて?!」
「いやだから、親に紹介…」
「いいんですか?!!」
思ってもいなかった提案に食い気味に反応すると、先輩はキョトンとした顔をしたあと、俺の前に正座した。
「会いたいって。ちゃんと男だって両親に伝えてるから、俺と一緒に帰省してくれませんか?」
「も、もちろんです!」
「はは。よかった〜。」
先輩の手を握ると、安心したようにふにゃりと笑う。
「綾人さん、説得頑張ってくれてましたもんね。」
「強敵だったよ。特に母さんが。」
「認めてもらえるように頑張りますね。」
「多分顔パスだよ。すげー面食いだし。」
「顔以外も良いところ、いっぱいアピールします!」
俺たちが前に進むための新しい約束をして間もなく、俺の誕生日は終わりを迎えた。
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