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第6話※
その日はぼうっとしていたらしい。
ふわふわと、夢見心地だったのかもしれない。
ランゲ…。
罪を犯すこの胸の痛みも、高鳴りも、全て貴方に向かう。
いけないとは分かっていても、また、あの夢を見たい…。
教会の一日は、朝日と共に始まり、夕日と共に終わる。
冬の夜は長く、深く、冷たい。
ミハエルはベッドに腰掛け、火照った頬に手を当てて、はあ、、と熱い息を吐いた。
…あれは、本当に夢だったのか…。
あの時程残穢もなく、後口もほんの少しクチュリと濡れている気がした程度だ。
現実ならば赦される事ではないが、夢ならば赦される。
ランゲはそれを、知っている。
はあ…、それにしても、あの快感を口にするなんて…。
トントン、とドアがノックされた。
「は、はい!どうぞ。」
「ミハエル…、遅いよ、迎えに来た。さあ、ここは寒い。俺の部屋で話そう。」
「あ、ごめんなさい、少し、考え事をしていて…。」
「うん、分かるよ。俺も、頭がいっぱいだ。」
「…、貴方も?」
その問いに、ランゲはふっと笑って、自室にミハエルを入れると、背中でドアをパタンと閉めた。
目を細めてミハエルの頬を撫でる。
「そう。もちろん…神は信仰しているけど、それ以外の全てを貴方が占めてしまった。神に祈る時以外は俺は貴方の事を考えている。」
「ラ、ランゲ、それは!」
「夢の話だ。だから今は何も言わないで。」
「ランゲ…。」
「ミハエル、俺は夢の中で貴方をとても愛していて、貴方をキツく抱き締めていた。貴方も抱き返してくれて。もちろん、夢の話だ。」
困ったものだ、とランゲは悲しそうに笑う。
神に仕える者は神のみを愛する。
そして、『淫』は八戒のひとつで、硬く禁じられているのだ。
この恋が禁断である事に変わりはなく、夢でなければ罰はそれ程に厳しいものとなる。
が、それを知っても、尚…。
「ランゲ…、わ、私は、私の見た夢は、貴方でした。貴方と名を呼び合い、抱き締め合い…。罪深くは感じましたが、ただ、とても、とても、幸せに感じました。」
ミハエル、とランゲが本当に嬉しそうに笑うだけで、ミハエルの胸は高鳴り、呼吸は浅くなる。
「夢だとしても嬉しい。俺はもっと過激だった。貴方と深く深く繋がり、何度も何度も抱き締め、抱き締められ、溺れるように口付け合う夢だ。貴方は何度も何度も絶頂して、俺も貴方の奥に何度も何度も愛を注いで…。目が覚めた今でも幸せだ、ミハエル。」
「ふふ、また2人だけの秘密が増えましたね。」
それで2人笑うと思われたのに、ランゲはふっと顔を曇らせた。
「ミハエル…、もし…、もしもの話だが、それが夢では無かったら、貴方はどうする。」
「…え…。」
「いえ、そんな質問は不要でした、忘れて。」
だが、ミハエルの口は動いた。
「ランゲ…、私には、夢だった事が信じられません。」
「ミハエル…、、それ以上は。」
「ええ、でも、貴方が囁く声も、貴方の手の感触も、貴方の体が熱かった事さえ、私の体に残っている気がします。」
「ああ、ミハエル、俺もだ。貴方に触れたこの手に、まだ貴方の感触がある。それどころか、体中…。」
ミハエルが縋るようにランゲを見る。
「ランゲ、苦しくてどうすればいいのか分かりません。この胸の高鳴りも、甘やかな疼きも。例え、罪だとしても、私は…。」
「ミハエル…。」
ランゲがミハエルの唇に指を立てた。
ミハエルはハッとして、唇を噛んだ。
「私は…、なんて、事を…。」
視線が落ちたミハエルの頬を暖かい手が包み、また、上向かせた。
「ミハエル、そんな顔をしないで。夢でもいいじゃないか。俺はまた、その夢を見たいと思う。」
「ああ、ランゲ…、、私も、貴方と同じ夢を、見たい…。」
「ミハエル、名前を呼ぶ事は、罪ではないよ。」
「……ランゲ、貴方の名前は、とても愛しく感じます。」
「ミハエル、ミハエル…、俺もだ、ミハエル…。さあ、明日も早い、もう寝なければ…。」
「……、はい。」
ベッドがギシリと音を立て、フワリと毛布がかけられると、そこは、曖昧で優しく暖かい夢の世界だ。
「…ミハエル、おやすみ…。」
「ランゲ…、ランゲ…おやすみなさい。」
暖かい掌で、見つめ合う瞼を閉じられる。
「もう、目は開けてはいけないよ?良い夢を…。」
ランゲは巧みに夢の世界へ誘ってくれる。
やがて、その手が頬をたどり、耳を掠め、首筋を通り、鎖骨を撫でる。
これは、罪深く幸せな夢。
…夢なのだ。
唇に何かが押し当てられて、熱く濡れたものが口の中に侵入しても、それが手と同じように火照った体を辿って行っても、それは夢。
ミハエルに許されるのは、漏れ出る声を、ほんの少し上げる事だけ。
膝を立てられ開かされても、ペニスを扱かれても、ソコが何か濡れた場所に包まれても、チュクチュクと音を立てて、何かが後口を広げていっても。
それが中のシコリを捏ね始めると、腰と足が跳ね、堪えきれない声が布団の中に吸い込まれていく。
後口が柔らかく蕩けたようになるまで、それは続けられるのだ。
腰がカクカクと揺れ始めれば、先走りが垂れるペニスを優しく優しく扱かれながら、後口に熱く硬い何かを、ゆっくりとゆっくりと挿入される。
空白を埋められてゆく幸せを、ゆっくりとゆっくりと感じる瞬間が、ミハエルの胸を切なく疼かせる。
ギシ、ギシ、とベッドが鳴り、水音が立ち、やがて、パンパンと尻に何かが打ちつけられる。
腰を持ち上げられ、立たされ、足を開かされ、下から突き上げられ…。
何度も何度も。
キツく抱き締められ、ペニスを扱かれ、体の奥に愛しい熱を放たれ、絶頂の証を吐き出す。
魔法が解けてしまうのを恐れるように、ミハエルは目を閉じ、言葉を封じて夢を感じた。
夢の余韻の残る体で目覚める朝が増えたのは、すぐだった。
「昨日の夢も幸せな夢だった、ミハエル。貴方はどんな夢を?」
「わ、私も、とてもとても幸せな夢でした。夢が幸せ過ぎて、怖い程です。」
「幸せだと感じられるなら、良かった。夢は選べないんだ、仕方ない。次はもっと幸せな夢を見れるといいね。」
「あっ、、もっと、幸せだなんて…、そんな事があるのでしょうか。これ以上の幸せなんて…。」
「きっとあるよ。夢で見られると良いね。」
「あ…、ハァ……、ランゲ…。」
「ん?ミハエル…、夢を思い出してしまった?俺も、思い出してしまったよ。服の丈が長くて良かった…。」
「あっ、ランゲ…、そんなに…。」
「仕方ないよ、生理現象だからね。ああ、君まで…。落ち着くまで、背中を撫でてあげる。」
「……、ぁ……、…。」
「…ん?ミハエル、ミハエル…、、今日は休むかい?」
「い、いえ…、ハア……。また、幸せな夢を見る事ができるでしょうか。」
「ミハエル、きっと見れるよ。信じていれば、必ず見れる。ミハエル、ミハエル…。ああ、ミハエル…どれだけ呼んでも、足りない。」
「ああ、ランゲ…、本当にその通りです。…さあ、行きましょう。」
「ミハエル、10秒だけ目を閉じて…。」
「20秒では、ダメでしょうか…。」
「ミハエル、ミハエル…、……、…、うん、イイよ。……、…。」
「ランゲ…、、ん…、……、…あん。」
雪が降る中、静かに静かに、重ねられる罪。
その年の雪は、とても深く、深く、積もった。
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