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第10話※
「……、………。」
気が付くと、辺りは闇に包まれていた。
優しい闇だ。
「ミハエル…、ミハエル…。」
ランゲが苦しそうに、自分の名前を読んだ。
…ランゲ、…。
泣きそうなランゲを慰めたくて、ミハエルはキツく抱き締め、腰を揺らした。
はあ、と息を吐いて、たまらないとばかりに腕ほどもあるペニスを抜き差しされる。
「ランゲ…、ランゲ、ア、アッアアアッ!!」
ミハエル、ミハエル、と声がするのをぼんやりとした頭で聞き、その高まった性感のまま、体を震わせた。
「ああっ、ミハエル!!」
その収縮に合わせてドチュドチュと音を立てて体を貫くペニスが、グウッと張った。
また目の前がチカチカと明滅し、深く、深く、堕ちてゆくように、高く、高く、放り上げられるようにミハエルは達する。
何度も、何度も。
熱く長い舌で体中を舐められ、強請ればすぐに与えられる快楽。
また後口がヌチュリと音を立てて開かれ、ランゲのモノを咥えて蠢く。
ゴリゴリとシコリを捏ねられ、奥を熱い精で満たされ、感じるのは幸せだ。
「…ああ、、あ、ランゲ、アッ、アアーー!」
だが、何度目かの絶頂の途中で、パチンと指を鳴らされた。
ハッ!!
「イケ。」
「ウアッ、アアアッ、アーー、アッ、アアアー!!」
急に現実に放り出された体が強張り、快楽と幸福の残滓が恐怖と罪悪感に揉み消される。
それでも体は絶頂にわななき、足を不随意に動かす。
腹に浮き出る悪魔のペニスの膨らみを、何かを吐き出す自分のペニスを、ミハエルは見たくなくてキツく目を閉じた。
だが、悪魔はそれを許してくれなかった。
「目を、開けろ。」
ミハエルの体を逃さないとばかりにキツく抱き締め、目を合わせて口を引き結ぶ悪魔を、ミハエルは睨みつける。
それをフンと鼻で嗤い、
「お前は俺のものだ。」
体に染み込ませるようにそう言って、悪魔は律動を再開した。
思考はすぐに溶けていき、体は与えられる快感のままに跳ねる。
「ミハエル、ミハエル…愛してる。」
強引に、それでいて、縋るように何度も何度も囁かれ、キツく抱き締められ、口も後口も更に深く犯される。
その度にズキンズキンと胸が苦しくて、涙があふれた。
だが、愛しいランゲと同じように抱かれても、ミハエルは絶望を拭えなかった。
貴方を愛していたのに…。
あれほど、愛し合ったのに…、何故。
もう…、、貴方はいない…。
「ミハエル…、ミハエル…、今は、眠れ。深く、眠れ。」
涙をポロポロ流しながらピクピクと体を震わせるミハエルに、悪魔が囁く。
スウッと、意識が沈むのを感じる。
が、その刹那、悪魔の震える声が聞こえた。
「……俺を、思い出してくれ…。」
……。
「…アウナミ。」
………、、
目を覚ますと、いつものようにランゲに抱き締められて眠っていた。
…、、夢…
アウナミ……、、?
どこか、聞き覚えのある言葉だった。
だが、眠りに落ちる直前に聞いたその言葉が何かを考えるより前に、モゾリと、何かが動いた。
頬を撫でる手、腹に巻き付く腕、腰を抱える腕。
体が強張る。
…、、ああ、夢ではなかったのだ。
ランゲ…、、何故。夢であったなら…。
心の底から、そう思う。
それでも、現実は、残酷だ。
六本の腕でキツく抱き締められ、震える息がうなじに吐き出される。
警戒し、強張る体。
途端に、ズキンと、胸が痛む。
ミハエル、ミハエル、と吐かれる息にさえ乗せられる言葉が、切なく震えている。
信じてくれと、何度も何度も言っていたのを思い出す。
貴方を、信じていたのに…。
信じさせてくれたらいいのに…。
何故、貴方が悪魔なの…。
この生涯、たった1人と思い愛した人が、悪魔だった。
不運と一言で片付けるには、あまりに深い絶望。
いえ、これは神から下った罰。
ズキン、ズキン…。
もう、その痛みが自分の痛みなのかどうかも分からない。
『どんな俺でも』
信じたい気持ちが、まだ確かにここにある。
この悪魔がランゲだと言うなら、本当に自分を愛しているのではないか。
そう、思いたい。
が、結局、神父であるミハエルの答えはひとつ。
…いえ、あれは、罰。
私は神に仕える身。
今度こそ、神を裏切ってはいけない。
彼は、悪魔だったのだ。
ランゲ…、、もう、貴方はいない。
これでお終いだ。
……さようなら、…私の、ランゲ。
「…離して、下さい。」
ズキン…、、
更にキツく、懐に深く抱かれる。
「お前はいつも通り、毎晩ここに来る。それがお前をこの腕から離す条件だ。」
「貴方は、どうするのですか。」
「どうもしない。俺は俺のまま、お前の側にいる。」
「…来ないと、言ったら…。」
ズキン…
「……お前を、…閉じ込める。」
「…、、その条件を飲むしかないのですね。」
「……、、…すまない。」
かすれる、小さな声。
背中で静かに震える悪魔も、この胸の痛みも、ミハエルはどうしていいか分からなかった。
神よ…。
ミハエルは、久しぶりに神に祈った。
今まで、あの悪魔の名前がそれに取って代わっていた。
神よ…。
人々の安寧の為この身を悪魔に売った私は、自己犠牲として救われるのか、それとも、淫売として裁かれるのか。
ミハエルはそんな事を考えながら、絶望と共に自分の行く末を思った。
昼間はそれまでと変わらず教会の仕事をした。
ランゲは相変わらずランゲとして、有能な補佐だった。
皆、気が付いていない。
ランゲの正体が悪魔だという事も、昨日の夜にあの部屋で起きた事も。
そして、夜。
約束通り、ミハエルはその部屋を訪ねた。
ズキンズキンと痛む胸と、ズクズクと疼く体を抱えながら。
トントン…。
自ら犯される為に出向いたその部屋のドアを、震える手でノックする。
「どうぞ。」
返事はいつもの、いや、今までのランゲの声で返ってきた。
切なく、心が痛む。
そのドアを開いて、部屋の中を見渡したミハエルの胸が震えた。
悪魔はランゲの姿で、本を読んでいたのだ。
まるで…、愛しいあの『ランゲ』のように。
「ミハエル…待ってたよ。」
声まで、ランゲのまま。
「……ぁ、あう…。」
ランゲ…ランゲ…、何故……。
甘い声も、その姿も、そのまま変わらない。
パタンと本を閉じて、こちらに寄る足音も、頬を撫でる手も、その香りさえ。
、、何故、貴方が悪魔なの…。
ランゲ……。
悲しみか、喜びか、ミハエルの胸が熱くなる。
涙がこぼれる。
このまま…、このまま、どうか…。
が、段々と体が膨らみ、角が生え、腕が生え…。
ああ…、、ランゲ…。
その愛する名前の行先は既に無い事を、痛い程に感じた。
悪魔の前にその身を曝け出し、悪魔が求めるままに欲情し、絶頂を繰り返す時間が始まった。
「ミハエル…、さあ。」
「…。」
ミハエルはその言葉に従い、服を脱ぎ、出された長い舌を吸い、聳り立つペニスに口付ける。
舌を這わせ、喉奥で締め付け、悪魔の目を見ながら吐き出されたものを飲み込む。
長く分厚い舌で後口を解され、更にその奥の結腸までを舌先で嬲られる。
深く、深くまで入り込む舌と体中を這う手に、絶頂したくてガクガク震える体。
だが、ランゲは絶対にそれを許さず、切ない声だけが部屋に響いた。
後口も結腸門もふやける程に解され、蕩けた声があがり始めた頃、ようやく長大なペニスを後口に当てがわれた。
ミハエルは唇を噛む。
今、こんなモノが入ってしまったら、私は、もう…。
ヌチュリ…、グプ、グププ…、
「ああ、あう…、、うう…。」
でも、…受け入れるしかない。
人々の、ためだから…、、。
ググ…、グウウ…ゴチュン!!!
「ヒッーーー!ッア、アアアーー!!!」
ズパン!ズパン!
ゴッ、ゴッ、
グチュ、バチュ
あっ、あっ、
初めから大きな腰使いで最奥まで抉られ、ミハエルは盛大に精を撒き散らした。
すぐに膨れた腹の奥にジワリと熱い精が注がれ、それを行き渡らせるように奥を捏ねられると、また、快感が頭を真っ白にする。
それが済むと、今度は、あやすようにシコリを攻められ、ペニスと乳首を手で優しく転がされて、高い声をあげて排出させられた。
気が付けば、悪魔はランゲの姿に戻っている。
朝は今までと同じように、その暖かい腕の中で甘く苦いチョコレートのような声で目覚めた。
何故…、、
ミハエルの心が揺らぐ。
『ランゲ』は、それを見透かしたように、愛を囁く。
神よ…。
ーーーそれから。
毎晩毎晩、ミハエルは悪魔の待つ部屋へ、犯されにゆく。
愛を乞われる事もあれば、朝まで抱かれる事もあった。
あの時と同じようにペニスを舐め合い、自ら後口を開かされて犯される事さえあった。
悪魔は何度も何度も言う。
「ミハエル、ミハエル… 愛してる。」
……、、ランゲ…。
ミハエルの心に浮かぶ愛しい人影。
今でもミハエルはあの『ランゲ』を愛しているのだ。
だが、同じ人間だと言われても、その本性を見た後では、もう目の前にいる者を『ランゲ』とは呼べない。
ただただ愛しい影を胸に、悪魔に犯される毎日。
……ランゲ…、どうして…。
涙が止まらなかった。
涙を流すミハエルを、悪魔は見ていられなかった。
いっときの幸せを得るためランゲの姿を捨て、悪魔の姿になる。
すぐに闇で覆ってその思考を溶かし、ミハエルの苦痛を取り除くのだ。
悪魔は口をへの字にしながら、何度も何度も、愛しい名を呼び、愛してると囁き、最奥を熱く満たす。
蕩けた目をして嬉しそうに抱かれるミハエルに、縋るように抱き付き更に肌を合わせる。
本当の自分を見て欲しくて、絶頂の途中で指を鳴らした。
途端に痛みに耐えるように蕩けた顔を歪め、悲痛に体を震わせるミハエルを、切なく突き上げた。
何度も何度も、愛してると囁かれ、腹の奥に熱を注がれ、最後は眠れと温かい手で目を向けて覆われて、今日もミハエルは眠りに落ちていった。
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