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第20話
「ミハエル、…ミハエル…。朝だ、…起きれるかい?紅茶は何にする?…ミハエル、今朝は寒いから、暖かくしてあげよう。」
それでも、どんな朝でも、目覚めれば後ろからランゲの姿で抱き締められている。
幸せな朝を思い出す。
全て夢だと言ってくれたなら、私は…。
以前と変わらず甘い声でミハエルの名を呼んで、優しく優しく口付けておきながら、それでも、愛しているとは言わない悪魔。
何故…。
ミハエルは一抹の寂しさを感じてしまう自分を認められない。
…私は、神に仕える者…。
そんなある日、つらつらと書き記した物を読み、ランゲからの欲の波に耐えながらやっとの思いでミサを終えた時の事だった。
ランゲは女性達に囲まれていた。
ミハエルは、いつものように目を逸らしていた。
が、キャアと声が上がり、思わず其方を向くとランゲが爽やかに1人の娘に微笑み掛けていた。
心の奥で湧き上がった、モヤっとした何かを振り払う。
その後も、しばらく黄色い声と爽やかな笑い声が絶えなかったが、いつもの事だと言い聞かせ片付けをしていた。
優しく笑い、分け隔てなく接する姿を目の端に捉えながら、床を掃く。
と、
ああ…、、そんな。
ジンとペニスが兆した。
ランゲが欲情すれば発情してしまう体は、敏感にその欲を拾う。
あの中の誰かに、欲情したのだ…。
ミハエルは唇を噛み締める。
嫉妬だなんて、そんな…。
神よ…。
罪を犯し、更に重ねる私を、お許しください。
『自己犠牲』
それはミハエルが諾々と悪魔に従う理由。
そして、醜い嫉妬と欲情を隠す隠れ蓑であり、既に罪を逃れる言い訳でしかなかった。
悪魔と知りながら彼を愛している事を、ミハエルは自覚するしか無かった。
街は見事に安寧を保っている。
いや、妖魔獣は出なくなったし、事件や事故も減った。
悪事は暴かれ、神の住む街とさえ言われるようになった。
だが、その街の神父が、毎晩毎晩、悪魔に口付け、ペニスの上で腰を振り乱れている事は知られない。
「ア、アアッ、、アン…ン、、ンウ、ンン…。」
「ミハエル…、、ミハエル…。」
「アア、も、やめ、アアア!…、お、おかし、く、アアッ、アッ、アッ、アアア!!」
「ミハエル、俺を、感じるんだ。」
「あっあっ…、や、…ヒャ、アアアッ、アーー!!」
体中に所有印が付いていて、胸もペニスも赤くなって、後口はほぐす必要もない。
いや、それどころか、排泄が、ない。
悪魔に抱かれる為の体。
日が沈めば、喉が渇くようにペニスを欲するようになった。
それどころか、ミハエルは、淫欲と罪悪感で狂いそうな心を持て余し、優しい闇の中で全ての苦痛を忘れる時間を、待ち望むようになってしまった。
神よ…、
どうすれば…。
自戒をしてみても、その欲も苦しみも無くならない。
鞭の痛みが朧気だからだろう。
昔はあんなに痛かったのに…。
それでもミハエルは、バチ、バチ、と背中を鞭打った。
今夜もまた、あの部屋に…。
頭の中はそれでいっぱいだ。
欲情する体、無惨に心は揺れ、その罪を頭が問う。
人々の安寧の為…。
ミハエルはその冬の長い夜を、悪魔の暖かい腕の中で過ごした。
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