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第三話 立珂の変化【後編】

 天藍は床に散らばった服を拾い埃を叩くと、そっと近づき薄珂にそれ差し出した。  薄珂はおそるおそる受け取り広げてみると、それは上半身用の服で子供用に見える小ささだった。しかも大きな穴も開いている。見た事の無い形状に薄珂と立珂は首を傾げた。 「変な形。それに布が薄い」 「これが有翼人用の服だ。通気性が良くて羽接触による皮膚炎も予防してくれる」 「え!? そんなのあるの!?」 「ある。伸縮性のある生地で身体に沿うから衣擦れで悪化することもない。伸ばして着てみろ」 「でも……」 「大丈夫ですよ。私も見せてもらいましたがとても良い物です」  薄珂は迷ったが、孔雀が微笑み頷いたので服を立珂に見せた。 「有翼人用の服だって。着てみるか?」 「けど穴空いてる。お腹出ちゃうよ」 「そっちが背中。そこから羽出すんだよ」 「あー……」  立珂も恐る恐る服を手に取ると、じろじろと訝しげにした。けれど触るほどその表情は明るくなり、着てみる、と着替えを始めた。  二人がかりで着替えると、着終わった立珂は恥ずかしそうに顔を赤くした。 「こ、これどうなの?」 「良い! 可愛い! 可愛いぞ立珂!」 「可愛さじゃなくて機能を褒めろ。吸汗速乾ってやつだぞ」 「なあにそれ」 「簡単に言えば汗疹にならない服だ。有翼人の慢性的な皮膚炎を解消すべく作られた人気急上昇の商品だな」 「ほんと。背中快適」 「それやるよ。他にもあるからまた持って来る」 「いいの!? わあい! 有難う!」  凄い、と立珂はきらきらと目を輝かせた。いつになくはしゃいで喜ぶ立珂の笑顔が嬉しかったが、薄珂は違和感を感じた。  天藍は兎獣人だ。有翼人用の服など必要が無い。それなのに都合良くこんなものを持っているなんて、まるで有翼人がいると知って来たようにも見えた。  薄珂が不安げに天藍を見ると、孔雀がそれを察したのか頭を撫でてくれた。 「天藍さんは商人だそうですよ。森暮らしの人に色々届けてるんだとか」 「商人?」 「ああ。けど崖が想像以上でしくじった」 「え? 人間に襲われたんじゃなくて?」 「事故だよ。足場が悪くてさ」 「そうなんだ。なんだ、そっか……」 「大丈夫ですよ。金剛団長が確認して、長老様も里への立ち入りを許可したそうです」 「金剛が? そっか。じゃあ大丈夫だね」 「なんだ。金剛はえらい信用あるな」 「……さっきは叩いてごめん。立珂のことになると駄目なんだ、俺」 「お互い様だ。それに攻撃は最大の防御だ。間違ってない。けどこれだけは覚えとけ」 「何?」 「殺られる前に殺れば確実に守れる。だがそれは全人類滅ぼすまで終わらない。殺る前に信頼できるかどうか見極めろ」  天藍は薄珂の頬を撫でた。  その手は金剛ほど大きくはないし、傷も無く綺麗だった。けれど温かく包み込んでくれる手は孔雀とも似ていて、それなのに何故か薄珂はいつになく緊張した。 「味方を増やせ。そうすれば弟を守る手段も増える」 「……うん」  そう言うと、天藍と孔雀はお昼時にお邪魔しました、と言って帰って行った。  診療所にいるのだから当然のことだけれど、薄珂はそれを妙に寂しく感じていた。

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