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第五話 車椅子【前編】
薄珂と立珂は里で住むことを許され、その日のうちに慶都の家に移動した。
今すぐ必要な着替えだけ持ち、家具の移動や廃棄は金剛が手伝ってくれるというので今日薄珂はその作業をすることになっている。
当然だが、動けない立珂は家具の移動はもちろん掃除もできない。薄珂はいつも気にしなくていいと言うが、それは立珂には何もできないと言っているのと同意義だ。薄珂は嫌味のつもりはないし役立たずだなどと思ってはいないけれど、そのたびに立珂が劣等感を感じ悔しそうにしているのも分かっていた。
立珂が笑って「がんばれ」と言ってくれればそれだけで薄珂の活力になるけれど、立珂が望むのはそんな精神的な話ではないのだ。
だがこればかりは仕方が無い。今回もそうなってしまうだろうと思っていたが、朝起きて薄珂は思わず声を上げた。
「……立珂? もう起きてるのか?」
「あ、おはよう薄珂」
「おはよう……って、あれ?」
薄珂は寝台に腰かけている立珂の頭からつま先までをじっと見た。
そこには寝間着ではなく天藍から貰った服を着ている。
寝間着ではない。着替えているのだ。
「……誰かに手伝ってもらったのか?」
「違うよ! 一人で着替えたの! すごいでしょ!」
「ああ、一人で――……一人で!?」
立珂は一人では着替えができない。
必死になれば一人でやることもできるが、そのせいで疲れて汗をかいたり転がれば羽が汚れるくので水浴びが必要になる。となると当然着替えをすることになるので結局着替えは一人でやらない方が良いのだ。
だが今日は違っていた。汗もかかず疲れもせず、貰ったばかりの新しい服を着て笑っている。
「え? 何で? どうやって?」
「天藍が新しくくれた服のおかげだよ! これね、首と脇の釦外すだけで脱ぎ着できるから動かなくていいんだよ。下は腰布で隠してるだけなんだけど、お着替えしたっぽいでしょ」
「凄いじゃないか! それに可愛い! さすが立珂だ!」
「えへへ~」
天藍がくれたのは日中着る服だけではなかった。
上下に分かれている寝間着もくれたのだが、これは前開きでも頭から脱ぐのでもなく、両肩と両脇についている釦を外すのだ。釦を外すだけで完全に脱げるので立珂はほとんど動く必要が無い。
そして日中着る服だが、これには二種類の仕様があった。
昨日着てみた伸縮させて着るものと、寝間着と同じく肩と両脇の釦で脱ぎ着できるものだ。これは袖が無いので羽織を羽織るが、それくらいなら羽の下を通せば良いだけだ。
立珂は寝る前に釦式の服を枕元に置いておいた。これなら寝間着を脱いで今日着る服に着替えるところまで一人でできる。
そして釦式寝間着には腰布も付いていた。これも釦式で両側は大きく開いているので自由が利く。腰に付けると足首まで隠れるのだが、こうすれば寝て皴になった下半身の服が完全に隠れる。
立珂は一人で着替えられたのが嬉しくて、薄珂は立珂が喜んでいるのが嬉しくて二人できゃあきゃあとはしゃいだ。
すると、こんこんと扉を叩く音がした。
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