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第七話 人間の快適な生活【前編】
朝起きて立珂を抱きあげ居間へ向かうと慶都の父が妙にうきうきしていた。
そこには昨日は無かった長椅子が置いてある。椅子といっても高さはなく、床に一枚板を挟んで大きな布団が置いてあるような形だ。枕も幾つか並んでいて、まるで寝台のようにも見える。
「ああ、起きたね。待ってたんだよ」
「おはよう。それなに?」
「二人とも座ってごらん」
促されるままに座るとふかふか柔らかくて座り心地が良い。柔らかすぎると立珂は羽の重みでぐらつき姿勢を保てないのだが、そんなこともないようだ。
「すっごく座りやすい!」
「そうでしょう。そのまま横になれるので立珂くんはここで昼寝をするといいですよ」
「え? まさかこれ、僕のために?」
「ためというよりきっかけかな。僕も慶都も疲れると椅子が辛いから」
「おじさんも? 人間になれば大丈夫じゃないの?」
「鳥獣人というのは不便でね。見ててごらん」
慶都の父は薄珂と立珂から少し距離を取った。そして両腕を広げるとざわざわと羽へと変わっていった。
鳥獣人は獣化すると当然羽が生えるのだが、有翼人のように背に生えるのではなく両手が羽になる。慶都も慶都の父も袖の無いゆったりとした服を着ていることが多いのだが、これは獣化対策らしい。袖が無ければ襲われた時すぐに獣化できるが、腕になにかが巻き付いているとそれだけで羽が広がらない。
慶都の父は体は獣化させず腕だけが羽になったが、途端に尻餅をついてしまった。
「おじさん!」
「ははは。この状態で止まると体勢が崩れるんだ」
「人間になりきれないことがあるんですか?」
「あるよ。人間になるっていうのは、そうだね、常につま先立ちしてるような感じなんだ。難しくはないけどひと工夫必要」
「へー。僕は出し入れできないから分からないや」
「それが僕らの違いだね。でも僕らもたまには広げて羽休めをしたいんだ」
「だから、鳥獣人と有翼人は家に羽を広げる場所を作るのが普通だ」
「うわっ!」
音もなくにゅっと現れたのは天藍だ。朝早くに慶都一家以外がいるとは思っておらず、薄珂はぴゃっと驚き跳ね上がった。
「天藍! 何してるの!?」
「何って、この長椅子を作ったのは俺だ」
「作った? どうやって?」
「先生の部屋見たことあるか? 捨てるのが面倒とかで色々ため込んでてな。そこから色々貰ったんだ」
「ああ、足の踏み場が無いあの部屋」
「部屋っつーか倉庫だなあれは」
「慶都に止まり木も作ってくれてね。今朝はぐっすりだよ」
慶都の父が部屋の隅に目をやると、そこには背の高い木を模した棒のようなものが立っていた。本物の枝のようになっていて、慶都はそこにちょこんと乗ってすうすうと眠っている。
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