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第七話 人間の快適な生活【後編】

「あれ寝やすいんですか?」 「個人差があるね。僕は寝台が良いけど慶都は高いところが好きなんだ」 「へー。寝る時は鷹なんですね」 「まだ子供だからね。大人になれば一日中人間でいられるよ」  里には獣の姿で過ごす者もいる。  特に猫や犬のように人間の愛玩用動物種は、追われても獣化して街に入れば分からなくなるので獣の姿を好む者も少なくない。  反対に肉食獣人は獣の姿であれば武器を向けられ、獣人であると分かれば危険な存在として捕らえられる。そのため常に人間の姿を取っている。  獣人の中でも人間と共存しやすい種とそうでない種に分かれるため、少なからず獣人の中にも格差があるらしい。愛玩動物種は低く見られがちだと金剛は言うのだが、薄珂も立珂もほとんど森から出たことが無いので実際どうなのかはあまり理解できていない。  しかもこの里は長老が猫獣人だ。さらには陸最強とまで言われる象獣人の金剛はその長老に従っている。薄珂と立珂には「ふーん」という程度のことだ。 「有難うございます、天藍さん。まさかこんなに喜ぶなんて思ってもなかったです」 「おじさんは好きじゃないの?」 「どの程度動物の本能を持ってるかによりますね。そういう習性は僕には無いみたいです」 「慶都は鷹の本能が強いのかな」 「しょっちゅう獣化したがるのもそのせい?」 「どうでしょうね。それは自制心の問題かと」 「まあ個人差分かってた方がいいな。何が欲しいかが分かるようになる。日々暮らす場所は快適な方が良いだろう」 「まったくです。天藍さんがいるうちに色々教えてもらおうかな」  獣人は人間を恐れるが人間の知恵や道具は便利なものだ。  だから金剛と孔雀が代表して人間の街へ行き、使えそうなものを取り入れている。逆に二人が何もしなければこの里は自給自足のみで、実際発展したのは金剛がやって来てからだという。それもほんの数年前の話で、集落らしくなったのも金剛が物資の運搬をやってくれているからだ。  孔雀が言うには、蛍宮の人々はここに獣人の集落があることは分かっているらしい。それでも手出しをされないのは象獣人という絶対的な強者が守っているからだという。  それほどまでに人間にとって象獣人は手に負えない相手なのだ。  金剛に頼るところの多い里は最低限で不便な生活をしているが、天藍のように愛玩動物種であれば人間と暮らすこともできる。それこそ商品を仕入れて売り歩く程度には自由が利く。  だから人間の生活に深くかかわることができて知識も多いのだろうが、それはつまり、天藍はここに隠れ住む必要が無いということだ。 (そうだ。天藍は居なくなる。審査が通ったら行ってしまう……)  天藍が教えてくれた有翼人用の服だけでも薄珂と立珂には衝撃だった。車椅子は奇跡のようだった。  あんな便利で快適な生活を知っているのならこんな不便な里で暮らしたいとは思わないだろう。   (……審査なんて通らなきゃいいのに……)  この夜、薄珂はなかなか寝付くことができなかった。

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