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第八話 有翼人の羽根の有効活用【前編】

 明け方まで起きていた薄珂が目を覚ましたのは昼近くになってからだった。  既に立珂は寝台におらず寝間着だけが残っている。最近の立珂は一人で起きて着替えて居間へ出ていることがある。今までからは考えられない変わりようで、寝坊できることが嬉しくもあり少し寂しくも感じた。  薄珂も着替えて居間へ向かうと、立珂と立珂にくっつく慶都、それに金剛と天藍もいた。  何故こんなに勢ぞろいしてるか分からず薄珂は思わず一歩引いた。  「おはよ……」  「薄珂が寝坊とは珍しいな」  「そんなことないよ。最近は朝ゆっくりなの」  立珂が自分でできることが増えたのもあるが、家事をやらなくていいというのが薄珂に朝の余裕を与えてくれた。  何よりも立珂の傍に慶都とその両親がいてくれて、金剛の住まいもすぐ傍にあるので安心感がある。そのため寝てて良いと言われたら二度寝したりもする。薄珂がのんびり起きてきたことを立珂は嬉しそうに笑っていた。  「寝ぐせ付いてるぞ」  「えっ?どこ?」  「こっち」  「あ、う、うん。ありがと」  天藍に言われて頭をぺたぺたと触るが寝ぐせの場所は発見できない。薄珂が慌てていると、天藍はクスッと笑って薄珂の髪を優しく撫でた。  天藍の手が目の前に来てようやく寝ぐせを恥ずかしく思いぱっぱっと髪を梳いた。  「だーいじょうぶ。寝ぐせも可愛いから」  「そ、そんなこと気にしてない!」  「触ってるのは気にしてるってことだよ。可愛いよねえ、天藍」  「は!?」  「ああ。可愛い」  「り、立珂は急にどうしたんだよ! 何言い出すんだ!」  「僕は薄珂に幸せになって欲しいもの」  う、と薄珂は真っ赤になった顔を逸らしてぎくしゃくしながら天藍と離れて立珂の隣に座った。  「で! みんなで何してんの!」  「あ、そうそう。これ作ってるの」  立珂が足元の籠から取り出したのは厚みのあるふかふかの枕だった。  この里でふかふかの寝具というのはあまりない。金剛が街から抱えて持って来るにも限度があるからだ。一つを長く使い続ける必要があるのでぺちゃんこの物が多い。  だが立珂の足元には五個ばかりの枕があり、見れば慶都も金剛も天藍も、それぞれ足元の籠に枕を複数個持っている。見るからに柔らかで、こんなに分厚い枕があるはずはない。 「どうしたんだこれ。中身なに?」 「僕の抜け羽根」 「え?」 「天藍が教えてくれたんだけどね、有翼人の羽根って人間に高く売れるんだって。知ってた?」 「売れるの? ただ欲しいんじゃなくて?」 「まさか。高級商品だ。布団は最低でも金十枚。羽根だけで作る装飾品だって最低銀五枚はする」 「そんなに!?」 「ああ。立珂の羽根ならもっと高値が付くだろうな。こんな大きくて美しい羽根は初めてだが、売るなら銀十は取っていい」 「びっくりだよね。だから狙われるんだね、僕」  銀十枚というのはそこそこの額だ。  銅二十枚で銀一枚、銀十枚で金一枚になる。  金剛が一度の買い物で使うのが銀五枚前後だが、これで里十五名ばかりの生活費ひと月分。野菜や果実は里付近で栽培できるが、肉や米といった自分達で手に入れるのに難があるものは買ってくる。他に衣類や家具など他に必要な物があれば買ってくるが、多くても銀十枚はいかない。  つまり立珂の羽根一枚で里の全員はひと月を贅沢に暮らしていけることになる。しかも立珂の羽は日に五枚は抜け落ちる。思わずごくりと喉が鳴った。

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