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第九話 祭り【中編】
わあ、と薄珂は立珂の車椅子を押して広場へ飛び込んだ。慶都は立珂の手を握り、それぞれの飾りが持つ意味を説明した。
歩いているだけで里の大人たちがこれを食えこっちも食ってくれと自慢の料理を振る舞ってくれて、若い女性たちは立珂を囲んでもっと可愛い髪型にしよう、せっかくだしお化粧もし用、ならば羽にも飾りを付けようと騒ぎ出す。
慶都は立珂は俺と遊ぶんだぞ、俺のだ、と頬を膨らませて怒っているけれど立珂は大勢の人に優しくされ声を上げて笑っていた。
「すっかり玩具だな」
「ひょえっ!」
立珂の幸せそうな姿に胸が熱くなり、薄珂の目にはじわりと涙が浮かんだ。
すると突如後ろから天藍がにゅうっと首を突き出してきた。急に現れた顔に驚き薄珂はおかしな鳴き声を上げてしまった。
「天藍!普通に出て来てよ」
「悪い悪い。立珂取られた寂しさを紛らわせてやろうと思って」
「そりゃ寂しいけど、それより嬉しいよ。里が立珂を可愛がってくれるとは思ってなかった」
「お前らの里入りを反対してたのは年寄りだけだからな」
「そうなの?」
「らしい。金剛があそこまでしてんだから迎えてやるべきだって声がほとんどだったんだと」
「……そっか」
「それがこんなに可愛い子だったなんて!ってのが母親勢だな」
「立珂は可愛いからな。当然だ」
薄珂はうんうんと大きく頷いた。
女性に飾り付けられていく立珂はどんどん美しくなり、次第に男達もなんだなんだと集まり出している。誰かが立珂は里のお姫様だなどと言い、すかさず慶都が立珂は俺のだと叫び防波堤になっている。
薄珂は自慢げな顔で見守っていると、つんっと天藍が頬を突いてきた。
「な、なに」
「立珂も可愛いけど、薄珂も可愛い格好してるじゃないか」
「ああ、うん。おばさんが俺のも用意してくれたんだ」
薄珂の服は立珂とは違いすっきりとしたものだった。
詰襟に幅広の袖で、前垂れと一連になる金糸の刺繍が施されている。着せてもらったときは豪華な服に心が躍りはしたが、そんなことよりも立珂の愛らしさに心を奪われていたのですっかり忘れていた。
だが天藍に頭からつま先までじいっと見つめられて急に自分の服装が気になり始めた。
「……あの、どうかな」
「いいじゃないか。似合ってるよ。可愛い」
「そ、そう……ありがと……」
薄珂は顔が熱くなり、目が合うと反射的に俯いた。特に何があるわけでもないのに、天藍と視線を交わすのは恥ずかしいように感じていた。
「薄珂ー!」
「り、立珂。どうした」
「みんなが遊んでくれるって言うから薄珂も行くかなーと思ったんだけど」
立珂はじいっと薄珂と天藍を見た。薄珂はやけに頬を赤くしていて、何故か困ったような顔をしている。
ハッと立珂は何かにピンときたようで、にっこりと微笑んだ。
「薄珂のことよろしく!」
「ああ。任された」
「え!?なんで!?」
ぎょっと驚いたが、立珂はそそくさと慶都の元に戻り里の面々とどこかへ行ってしまった。
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