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第十話 金剛の想い【前編】

 翌朝、薄珂は眠っている立珂はそのままにして慶都の母と父の片づけを手伝っていた。  しかし少ししたらすぐに立珂も起きて来て、やっぱり自分も手伝いたいと言い出した。重い羽を弄り回された身体は辛いけど、やはり何もせずにいることはできないようだった。  「少しだけ!少しだけだから!」  「……少しだぞ。昼前には戻って昼寝すること」  「うん!する!するよ!」  「慶都。立珂と一緒にいてくれ。俺、櫓の解体手伝わなきゃいけないんだ」  「任せろ!大丈夫だ!」  「頼んだぞ」  普通なら他人、ましてや子供に立珂を任せたりはしない。だが慶都は護衛としては薄珂よりもはるかに優秀だった。  祭りでやたらと羽に触ろうとする者が多かったらしいのだが、その度に慶都が羽に触られるのはどれだけ苦痛かを獣化して実演し訴えたという。羽に飾りを付けるのもやめさせようとしたらしいが、せっかく仲良くなれるきっかけを失いたくないという立珂の想いを汲んだらしい。  大勢の人に囲まれ背中が多少痛むだけで済んだのは慶都のおかげだと立珂は嬉しそうにしていた。そういった気持ちの面で、慶都は誰よりも頼りになった。  だがそれ以上に薄珂が安心しているのは慶都が鷹獣人だからだ。  まだ幼いが十歳の大きさの鷹は既に人間が相手にするには難しく、獣人でさえもその高度と速度に立ち向かえる者は少ない。しかも里に集まっているのは人間から逃げるしかない攻撃手段に疎い獣人ばかりだ。  金剛が全力で向かって来れば分からないが、平和な生活に慣れた獣人が慶都に立ち向かうのは愚かと言っていい。  そうして薄珂と立珂はそれぞれ片付けに向かったが、立珂は車椅子だからできることはあまり無い。けれどそこら中に立珂の羽根と、獣化して守っていた慶都の羽根が抜け落ちていたのでそれを拾って回ったようだった。昼時に家に戻ると両手で抱えるほどの羽根が集まっていた。  「結構あるな」  「一枚が大きいからね。枚数は少ないよ」  「よし。じゃあまた燃やしておこう」  「あ、ううん。布団にしようと思って。ここら辺寒くなるから冬用に」  「ああ、そうだったな」  羽根が活用できると知ってからというもの、立珂は羽根を溜め込むようになっていた。  自分の毛を道具にする気持ちが分からない金剛は嫌じゃないのか、無理しなくていいんだぞ、としきりに気遣ってくれている。立珂本人は全然気にしていないし鳥獣人である慶都一家もそういうものだよね、と気にしていない。  それでも金剛は不安そうな顔をしていたが、立珂はその気持ちが嬉しいようで金剛には一番最初にお布団あげるね、と抱き着いていた。  だがそんな思いやりには興味が無さそうで、不思議そうに立珂の羽を見ていたのは天藍だ。  「抜けても羽の大きさは変わらないんだな」  「だって抜いてもすぐ次が出て来るんだよ」  「出て来る?伸びるんじゃなくてか?」  「見た方が早いかな」  立珂は肘あたりに垂れている一本を掴んだ。  付け根が見えるように他の羽を持ち上げ引き抜いたが、途切れることなく次の羽が芋づる式に出てきた。どうやら一本の糸のように連なっているようだった。  「てな感じで、無くなることがないの。どうなってんだろうね」  「有翼人は分からないことが多いからな」  「でも使い道あるならどんどん抜こうよ。お布団いっぱい欲しい」  それはいいな、と金剛は無理矢理笑顔を作っていた。心配な気持ちと立珂を応援したい気持ちに挟まれているのか、頬は引きつっている。  立珂は安心させようともう一本抜こうとしたけれど、その手を天藍が止めた。

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