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第十話 金剛の想い【後編】
「止めておけ。体内の何かしらの成分を消費してるとしたら身体に影響が出る」
「大丈夫だよ。今までだって抜いてたし」
「そんなの血液だってそうだろう。多少無くなっても問題は無いが失血死という言葉もある」
え、とその場の全員が静まり返った。
鳥獣人である慶都一家もそんな考えはなかったようで、顔を見合わせている。
「か、考えたことなかった」
「考えろ。それと捨て方。すり潰すんじゃなくて溶かす方が良い」
「何で? 同じじゃない?」
「違う。有翼人の羽根の粉というのは商品になっている。効能は覚えていないが、有用な物なんだ。完全に使えない状態にした方が良い」
「そこまでしなくてもいいだろう。俺がすり潰して燃やすのが一番早い」
「早さより安全性を取るべきだ。もし風に乗って人間に知られたらどうする。それに熔解するのは手間じゃない。見てろ」
天藍は羽根を一枚を使い捨ての紙皿に乗せた。そして腰に下げている小さな革の鞄から液体の入った小瓶を取り出しぽとぽとと垂らす。
すると羽根は何の匂いも音もたてずに濁った液体へと姿を変えた。あの美しさの名残はみじんも感じられない。
「こ、こんなになるのか」
「早いだろ」
「だが……」
「何だよ。まだ何かあるのか」
「……いや、いい。お前の言う通りそれが一番良い」
いい、と言ってはいるが顔はやはり曇っている。
薄珂と立珂にとって羽は疎ましいものなので、何をそこまできにすることがあるのかが分からなかった。
「金剛。気になることあるなら言って」
「……抜けたとはいえ立珂だったものだ。本当は燃やすのも嫌だ。だが残しておけないのならせめてこの手でやりたい。それをこんな余所者に任せるのが嫌なんだ……それだけだ……」
「金剛……」
「本当にあんた見た目に合わない性格してるな」
「金剛は優しいんだ。でも僕平気だよ。ぶっとい髪の毛みたいなものだから」
「……ああ。お前がそう言うなら」
立珂は大丈夫だよ、と金剛にぺったりとくっついた。
やはり金剛は辛そうな顔をしているが、天藍は呆れたようにため息を吐いた。
「じゃあ溶かす方向で。先生に薬品を揃えてもらえばいいだろう。今後は先生に直接渡せ。それまでこれは診療所で保管しておく」
「有難う、天藍。ほんとに色んなこと知ってるね」
「薄珂の役に立てたならよかったよ」
「お、俺じゃなくて立珂のだよ」
「立珂を守りたいお前のためだ」
「……うん……ありがと……」
思いもよらぬ矢が飛んできて、薄珂は顔を赤くしてぷいっと視線を逸らした。
天藍はつうっと薄珂の髪をなぞり頬に触れようとしたようだったけれど、それは立珂によって防がれた。立珂はぺんっと天藍の手を叩いた。
「そういうの二人の時にやって」
「これは失礼」
「何言ってるんだ立珂!」
「薄珂。僕もう一人で寝起きできるからね」
「だ、だから何!?」
「泊まる時は言っていってね」
あの儚く守ってやらなければいけなかった立珂はどこへ行ったのか。
立珂は慌てる薄珂を見てにやにやと笑っていた。
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