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Episode1・クロードと二人のにーさま3

 私はそんな二人の姿に目を細め、ゆっくり立ち上がりました。 「ゼロス、おかえりなさい」 「ブレイラ!」  ゼロスが嬉しそうに振り返りました。  そしてすぐに私がいる東屋に駆けてきます。 「ブレイラ、ただいま! 入ってもいい?」 「もちろんです。どうぞ来て下さい」  私が手を差しだすと、東屋に入ってきたゼロスが私の手を取ってそっと唇を寄せる。幼い頃は可愛らしさでいっぱいでしたが、今は一つひとつの所作が様になってきましたね。とうとう北離宮に立ち入れなくなったくらいです。  ゼロスが改めてただいまの挨拶をしてくれます。 「ただいま、ブレイラ。もしかしてブレイラも待たせてた?」 「大丈夫ですよ。あなたは朝から冥界に行っていたんですよね」 「うん、ブレイラにもお土産があるから受け取ってね。新種の花がすごく綺麗だったから、どうしてもブレイラに見せたくなって」 「それは楽しみです! ありがとうございます!」 「研究所に預けたから、問題なければ北離宮の植物園に移植するように言ってある」 「待ち遠しいですね」  創世期の冥界では動植物の新種が次々に誕生しています。中には危険なものもあるので私の手に渡る前に研究所で調査する決まりがありました。 「一週間ぶりの冥界はどうでしたか?」 「うーん、ちょっと気になることがあったかな」 「それは魔界に帰ってくるのが遅れた理由ですか?」 「そう。ブレイラ、どうぞ」  話しながらゼロスが私に座るように促します。  東屋のベンチに腰を下ろすと、立ったままのゼロスを見上げました。  ゼロスは気になったことを話してくれます。 「一週間で山に鍾乳洞みたいな空間が出来てたんだ。小さな空間だけど一週間で出来るものでもないし」 「たしかに一週間でそんな空間が出来るなんて聞いたことないですね。創世期特有のものではないんですか?」 「ちょっと分からなくて、兄上に相談しようと思って。兄上どこにいるか知ってる?」 「それがいいですね。イスラなら今日は朝から魔界の王都から南にある街に行っているようです。でもそろそろ帰ってくるはずですよ」  こうして私とゼロスは話していましたが。 「にーさま! はやく! はやくこっちにきてください!」  いけません、クロードが焦れてしまいました。  うずうずしながら待っていましたが、とうとう限界がきたようですね。 「ゼロス、行ってあげてください。クロードはずっとゼロスの帰りを待っていたんです。新しい型を教えてあげるんですよね?」 「クロードは真面目だからな~」  ゼロスは朗らかに笑うと東屋を出てクロードのところへ行きました。  東屋で見学している私のところにも二人の声が聞こえてきます。 「にーさま、みててください! えいっえいっ、……こう?」 「そうそう。もうちょっと足の角度を浅くしてみて?」 「はいっ。えっと、……えいっ!」 「いい感じ。クロード、上手になったね」 「うん。にーさまもしてみてください。みたいです」 「いいよ」  ねだられたゼロスが上段蹴りを決める。  シュッ!! 凄まじい風切り音。東屋にいる私のところまで音が届くほど。 「…………。……わたしのときと、ちがう……」  クロードが悔しそうに呟きました。  憧れに瞳は輝いているけれど、やっぱり悔しさもあるのですね。  しかも冥王の蹴り技に訓練場にいた兵士たちも訓練を止めて見入っていました。「凄まじい力だっ」「あの威力、さすが冥王様だ」「あれで本気じゃないのか……」とため息とともに声が聞こえてきます。  私はなんだか誇らしい気持ち。ゼロスは幼児の頃から戦闘に参加するようになり、今では冥界を守るステキな冥王様なのですよ。  あ、誇らしい気持ちなのは私だけではありませんでしたね。  兵士たちの反応に気付いたクロードも誇らしげな様子。ゼロスの隣にさりげなく立つと『これがわたしのにーさまです』とばかりに胸を張っています。  悔しさはあるけれど、強いにーさまはやっぱり自慢なのですね。たしかにクロードの二人の兄の強さは規格外ですから。 「クロード、組み手しよっか。僕に攻撃してきて」 「はいっ!」  クロードは返事をするとさっそくゼロスに攻撃を打ち込みます。  ゼロスは片手だけで防御しながら、「クロード、もっと力を入れて」「踏み込みが甘い」と指導していました。  クロードは毎日お稽古や鍛錬を頑張っているのでそれなりに動けているのですが、やはりゼロスが相手だとあしらわれている感がありますね。でも仕方ありません、ゼロスが子どもの時もイスラが相手の時はこんな感じでした。  ただ、イスラは結構スパルタでしたよね。ゼロスが赤ちゃんの頃から「しゅうちゅうしろー!」とイスラに特訓されていましたから……。  ゼロスとクロードの特訓を見ているとなんだか微笑ましい気持ちになります。 「クロード、いい動きになってる。じょうずじょうず」  ゼロスが攻撃を防御しながら褒めています。  クロードは嬉しくなったようで機敏さが増していく。調子が出てきたようですね。 「にーさま、ぼうぎょだけじゃなくて、こうげきしてください!」  あ、クロードが挑発しています。生意気ですね。 「えっ、僕もするの?」 「さぼってるんですか?」  あ、また生意気なことを。  ゼロスが「仕方ないなあ」と頭をかいた、次の瞬間。  ドンッ! 「わあ!」  クロードの体が弾き返されました。  クロードはしたたかにお尻を打ち付けて、びっくりした顔でゼロスを見上げます。  ゼロスは攻撃したわけではありません。ただ防御の時に少し踏み込んだだけ。

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